iPRデイリーは先日、世界知的所有権機関や各国の特許データベースをもとにブロックチェーン関連の特許数のランキングを発表し、特許出願数で中国のアリババが90件でトップとなった。
先日54歳の若さで創業者のジャック・マーが引退を表明した事でも話題になった中国ITの巨人は仮想通貨やICOに対しては慎重な姿勢を示す一方でブロックチェーン技術の活用に対しては貪欲だ。国別でも中国企業の特許申請数がトップでその勢いが伺える。
(出典:「2018年全球区块链专利企业排行榜(TOP100))
2位はIBM で89件、次いでマスターカードが80件、バンク・オブ・アメリカが53件と続く。注目すべきは4位のnchain。自称サトシ・ナカモトを自称した事で物議を醸したりと何かと話題の尽きないクレイグ・ライト率いるnchainは黎明期よりブロックチェーン技術の研究・開発を手掛けて来た。
余談だが、クレイグ・ライトは現在BCHの仕様変更を巡りジーハン・ウーのビットメインと熾烈な争いを繰り広げており、11月に起こり得るBCHの分裂の件でも渦中の人物だ。
世界で繰り広げられる特許戦争
元々はオープンソースが主流だったブロックチェーン業界だったが、今やブロックチェーン技術の特許使用料を巡り世界中の企業が熾烈な特許戦争を繰り広げている。そんな中日本企業でランキング100位以内に入っているのは26位のソニーと46位の富士通の二社のみ。
現在、日本は知的財産使用料による収益で米国に次いで世界2位だが世界各国の企業がブロックチェーンに関する特許争いを繰り広げている中で日本企業の存在感はない。
日本にとっての特許使用料の意味
さて特許使用料(知的財産使用料)は日本にとってどのような意味があるだろうか。日本の貿易収支、海外からの特許使用料、海外からの配当のそれぞれの収支の推移を見て頂きたい。
(出典:vdata.nikkei.com)
このように現在の日本の貿易構造はかつてのように貿易収支の差額で利益を生むというモデルではなく知的財産使用料や海外からの配当による収入で稼ぐモデルに転換しており、直近2年は知的財産使用料の収益は2兆円を超えている。
自動車メーカーで言うならば海外に製品を輸出すのではなく、海外で製品を生産・販売して、現地の子会社からの発明の対価や配当を受け取るといったモデルだ。80年代の貿易摩擦、2014年の中国による商船三井の輸送船差し押さえの時の日本政府の対応からも明らかなように政治力、外交力のない国にとって貿易収支の差額で稼ぐのは大きなリスクがあるため海外からの知的財産使用料と配当収入は重要な意味を持つ。
立ち遅れる日本
麻生太郎財務相は6月25日の参院予算委員会にて「ブロックチェーン技術は育てて行く必要がある」と答弁したものの現在のところ政府レベルでの戦略は提示されていない。
一方、中国はブロックチェーンやAIなどのスタートアップのためのサンドボックスを策定し支援するという動きが活発で、中国政府が展開する「第13次5カ年計画」(2016〜2020年)における国家情報化計画でもブロックチェーンを”重要技術”のひとつとして挙げ、重点的に育成していく方針を示している。実際に杭州市はブロックチェーンプロジェクトを支援する目的でグローバルブロックチェーンイノベーションファンドに16億ドルを投資している。
(関連記事:ICOを禁止した中国のブロックチェーンに対する本気度)
貿易立国からの産業構造の転換に日本企業は成功したもののブロックチェーンに関する特許争いにでは後れを取る形となった。今回紹介したランキングはあくまで特許出願数であり、特許使用料の収益と特許出願数の間に相関がある訳ではない。しかし重要な技術の特許をどの国・地域が取得するのかはその業界のエコシステムのみならず国際社会における各国の”生態的地位”の変化を追う上で重要な指標のひとつだ。