麻生財務大臣に学ぶ、この国に巣食う「苦行信仰」という名のコンセンサス・アルゴリズム

麻生太郎財務相は25日の参院予算委員会にて、仮想通貨の取引所で得た利益を現在の「雑所得」から「申告分離課税」に変更すべきという藤巻健史議員の意見に対して否定的な見解を示した。

「給料なり事業で得た収入の場合、最大55%くらいの税率がかかるのに、仮想通貨で利益を得た場合は20%で良いというのは世間で通用しますかね。国民の意見が得られるものなのか。」

 

この答弁が報じられると瞬く間に拡散され「株式とFxの利益は汗水ながして得たモノなのか」、「これだから大口納税者は皆海外に拠点を移している」、「仮想通貨のイノベーションを邪魔するな」、「この人にだけは言われたくない」と、麻生財務大臣の答弁に関する藤巻氏のツイートには100件以上のコメントが寄せられた。


(画像出典:ITmedia ビジネスオンライン

 

現在仮想通貨で得た利益は雑所得に分類されており、所得に応じて課税率は累進し住民税と合わせて最大55%になる。日本のトレーダーが申告分離課税の国のトレーダーと競争する事は不可能だ。これでは世界と戦うどころか、そもそも相場の動きによってはまともな売買すらままならない。

 

このため香港などの取引所に飛ばしてスーツケースで日本に持ち込むといったブローカーや、アングラな相対取引が蔓延り、結果的に海外に資金が流出してきた。雑所得の税制度は、日本のマイニング業界にも暗い影を落とす。国税庁はマイニングによる所得に関して以下のような見解を示す。

いわゆる「マイニング」(採掘)などにより仮想通貨を取得した場合、その所得は、事業所得又は雑所得の対象となります。この場合の所得金額は、収入金額(マイニング等により取得した仮想通貨の取得時点での時価)から、必要経費(マイニング等に要した費用)を差し引いて計算します。なお、マイニング等により取得した仮想通貨を売却又は使用した場合の所得計算における取得価額は、仮想通貨をマイニング等により取得した時点での時価となります。             (国税庁ホームページより)

 

そもそも仮想通貨所得時点での時価を計算する事など(厳密には)不可能であり、世界を相手にマイニング戦争を戦う日本のマイナーにとって現在の税制は余りにも大きな足かせだ。PoWの仮想通貨においてマイニングによりハッシュパワーを持つ事は安全保障の観点においても重要な意味を持つ。例えばビットコインのネットワークにおけるハッシュパワーの42%程はジーハン・ウー率いるBTC.comとAntpoolに寡占されており(2018年6月27日時点)、実際にやるかはどうかは別としてジーハンがその気になれば日本のノードからのブロックを選択的に妨害する事も技術的には可能なのだ。

 

膨大な資金が集まるこの成長産業において国際的な競争力を失う事は、日本が相対的に貧しくなり国益を損なう事なはずなのだが、実は麻生財務大臣のこの見解には明確な根拠と”正義“がある。

 

それが「苦行信仰」(Proof of Penance)だ。この国では如何に苦行を耐え忍んだか、どんな不幸な境遇に耐えて来たかという事がコンセンサスを得る上で最も重要な規範となる。生産性、社会正義、学術、テクノロジー、人権、国際競争力、これらの価値など「苦行」に比べれば鴻毛のように軽薄だ。

 

例えばあなたがこの国で”営業マン”として成功したいのならば、何よりもまず苦行のコンプライアンスを遵守している事を証明しなければならない。顧客のヒアリングや商品の研究、サービスの効用のアセスメントなんて事をやっている暇があったら、足しげく菓子折りを持って行き、同情を買うような不幸な境遇の身の上話を仕込む方が賢明だ。汗だくになりながらも差し出されたお茶に手を付けず口喝に耐え忍ぶ演出があればなお良い。

 

また多くの人々がその実績を説明できないのにも関わらず二宮金次郎が長らくこの国の美徳の象徴的な存在だったのは、彼が高重量の牧を背負い、ぼろ草履を履き、口を堅く結んで貧困と苦行に耐え忍んでいた(イメージがある)からだ。もしあの銅像の製作者が、燦々と降り注ぐ太陽の下で朗らかに白い歯を見せる闊達な好青年を表現していたのならば、恐らくコンペを勝ち抜く事は出来なかっただろう。

 

苦行の信者は他人にも苦行を押し付けるという慣習を忠実に守るため、苦行は世代を超えて業のように巡る。「戦争も知らずに」となじられた団塊世代は、インターネットによる生産性の向上を苦行からの逃避と眉を顰めるし、ビットコイナーならば誰しも「汗水もかかずなんの苦労もせずに儲けやがって」と不可解な糾弾を受ける。

 

この国で苦行のコンプラアンスを遵守しなければならないのは動植物だけではない。2010年小惑星探査機はやぶさの地球帰還を報道する際、日本のメディアは、学術的なインパクトファクターを伝えるより先にまず「おかえりなさい」と言った。そして暗く冷たい漆黒の宇宙をたった一人で進み、一度は迷子になりながらも、ボロボロに傷付きながら、決して諦める事なく2592日ぶりに地球に帰ってきたはやぶさの苦労を”ねぎらった”。苦行のコンプライアンスを満たしたはやぶさは晴れて社会に迎え入れられる事となる。この国に巣食うコンセンサスアルゴリズムは、無人探査機まで無理やり擬人化して苦行を強要する程の魔力を秘めているようだ。はやぶさが世界で初めて地球重力圏外にある天体表面に着陸してサンプルを回収して来たのか、自称クールジャパンを手土産に宇宙人との親交を深める事で地球を侵略から守ったのかどうかは然したる問題とはならない。

 

今回の麻生財務大臣の見解を受けて、多くの人々は苦行信仰のために犠牲になった数々の”国益”を思い偲ぶのだが、当の本人はいたってポジティブだ。同委員会において麻生財務大臣はブロックチェーン技術に関して

「日本は一番進んでると思っている」

とも述べている(なお根拠についての言及はなし)。前途洋々な技術大国のビジョンを抱く、華麗すぎる一族の当主を後目に日本のテクノロジーは富と人材の海外流出という苦行に耐え忍ぶ。