現実味を増すビットコインキャッシュの分裂

BitcoinABCとnchainの対立によるビットコインキャッシュ(以下BCH)の分裂が現実味を帯びて来た。

 

BCHは定期的なハードフォークによりアップデートをしているのだが中央集権的な意思決定機関はないためソフトウェアの開発を行うクライアントが複数存在している。マイナー達はそれぞれクライアントを選ぶ事によりクライアント同士の健全な競争を生むという発想に基づいている。

 

主なクライアントとしてBitcoinABCとBitcoinUnlimitがあり現在それぞれ65%、32%程のシェアを占める。

 

世界最大のマイニングファームのビットメインがサポートしているBitcoinABCは11月15日に既存の仕様と互換性のないアップデート、つまりハードフォークを行う事を発表した。BitcoinABCは以下のような仕様を提案している。

・OP_CHECKDATASIG
・トランザクションサイズの制限
・Lexical transaction order(参考:trustnodes.com

(出典:bitcoinabc.org

 

OP_CHECKDATASIGはビットコインキャッシュのブロックチェーンから情報を取り入れる事を許可するopcodeであり、所謂オラクルやクロスチェーンを通じたスマートコントラクトやアトミックスワップの実装を可能にするための仕様だ。ロードマップにもあるようにBitcoinABCはBCHを通貨だけでなく、様々なスマートコントラクトへ拡張できる仕様にするという意図があるのが分かる。

 

 

さてこれに対してブロックチェーンの研究・開発を手掛けるnchainのクレイグ・ライトは猛反発。BitcoinABCの仕様変更を本来のビットコインのビジョンを失っているとして拒絶してnchainはBitcoinSV(satoshi’s vision)というフルノードのクライアントを立てる事を発表した(参照:nchain.com)。

 

元々nchainとBitcoinABCの対立はあったもののBitcoinABCはジーハン・ウー率いるビットメインとの関係が深く65%のマイナーのクライアントである一方で、サトシ・ナカモトを自称した事で物議を醸したクレイグ・ライトが騒いだ所でマイナーを求心する力はないだろうといった雰囲気があった。しかし先週CoingeekがBitcoinABCを糾弾しnchainの支持を表明した事で風向きが変わる事となる。

 

CoingeekはBCHのハッシュレート22%のシェアを占める巨大なマイナーだ。CoingeekのCEOカルヴィン・エヤーは11月のハードフォーク後にBitcoinSVが実装され次第直ちに利用する事を表明した。
(参照:coingeek.com

 

BCHのネットワークで最大のマイナーであるCoingeekがクレイグ支持を表明した事でBitcoinABCとBitcoinSVの対立はマイナーを二分し得る事態となったのだ。
(※:技術的な争点に関してはbitco.in/forumを参照してください)

 

ハードフォークが現実味を帯びてきた事でBitcoinABCについで二番目の規模のクライアントBitcoinUnlimitedは両者の仲介をしお互いの妥協を提案。両者の対立によるハードフォークはハッシュパワーを分散化させる事となり、BCHの発展のために回避すべきだとして折衷案を模索して来た。(参照:bitco.in/forum

 

しかしBitcoin Unlimited のリードディベロッパーのアンドリュー・ストーンの声明を見る限りBitcoin Unlimitedの仲裁の努力は両者の溝を埋めるには至らなかったようだ。

 

Bitcoin Unlimitedは代理人の通じて両者の代表と妥協案を模索してきました。しかし現在のところ両者は最低限の妥協をも拒絶し我々の努力は無駄に終わりました。どんなに合理的だったとしても彼らは如何なる変更にも応じようとはしませんでした。残念な事ですが今回の一件は技術の改善やエンドユーザーに関する話ではなく、エゴと政治の問題だと言わざるを得ません。

 

このような対立を元にハードフォークする事はBCHの決済手段への導入やエンドユーザーへの普及を考えると明らかなネガティブファクターだ。

 

今回の一件は分散化ネットワークのガバナンスの在り方についても再考させる。Bitcoinの最も重要なコンセプトであるプロトコル支配による分散化されたネットワークという概念は世界中の人々を求心し巨大なマーケットを形成してきた一方で、これまでエンドユーザーはプロトコル支配による分散化ネットワークの中で”政治的な対立”に散々振り回されてきた。そのガバナンスに関しては試行錯誤の中で未だ誰も最善策を見出せていない。

 

両陣営の”口撃”は熾烈さを増し、イーサリウムのヴィタリク・ブテリンが場外から横やりを入れたりコア派が便乗するなどといった場外乱闘にまで発展する事態となっている。

 

一方でBitcoin.comのロジャー・ヴィアなど影響力のあるオピニオンリーダーの幾人かは未だ沈黙を貫いたままだ。彼らがどちらの勢力につくか、妥協案を提示して両者を説得する事に成功するのか、もしくは3つ目のチェーンとして分岐するのかはまだ分からないが11月15日までにはエンドユーザーはさらに翻弄される事になりそうだ。