特許権侵害訴訟で敗訴したビットメインの今後

Jihan Wu率いるBitmain社はマイニング専用機器ASICの製造とハッシュレート(≒マイニング量)で世界一のシェアを誇る。同社が発表したIRによるとビットメインの提供するASICは全採掘量の66.6%がビットメインのASIC により採掘されており、8月20日時点でビットメインの運用するマイニングプールはBTCのハッシュレートの30%を占める巨大企業だ。

 

さてビットメインの提供するAntminer S7とS9は同社の主力ASICとして知られているが、先日このS7、S9の特許権を巡る裁判で敗訴していた事がジャーナリストのJi Qianにより明らかになった。

 

Ji QianによるとAntminerS7およびS9はBitmainのチームではなくbitwei Technology代表のYang Zuoxingにより開発されたものだと言う。


(左:Jihan Wu 右:Yang Zuoxing)

 

BitmainはBitWei Technologyの代表のYang氏を特許侵害で訴えており両者はこれまで何度も法廷で争っている。中国国家知識財産権局の専利復審委員会(Patent Reexamination Board: PBR、日本における審判部)は2018年4月8日にBitmainのS7,S9の特許権を無効としている。

 

事の発端は2015にまで遡る。Yang Zuoxingは元々の半導体設計技師として従事していたがFried Catが倒産したために自身の半導体技術を世に公開する術を模索していた。2015年初頭Bitmain社のMicree Zhanと知り合い、最終的にBitmainにASIC用のフルカスタムのメソッドを技術供与したという。

 

「2015年初頭は仮想通貨マイナーにとって厳しい時期で、残念な事に多くのマイナーがこの業界から去っていった。私の半導体技術はビットコインの採掘には最適で、私はMicreeにそのメソッドを教えたんだ。私はフルカスタムの設計書を彼に供与し、それがBitmainのAntminer S7,S9の開発につながったんだ。」

   Yang Zuoxing

 

その後報酬を巡りYangは数度に渡りBitmainと交渉したが、失敗に終わり両者は袂を分かつ事となる。Yangによると技術供与に対する対価は一切支払われていないという。

 

その後YangはBitwei Technoligyを設立しPangolin Minerを開発する。Yangの主張によるとBitmainはYangの技術を用いたS7、S9以外の後継機のASICの開発に全て失敗しているという。

 

Yangの技術がBitmainにとってどれほど決定的だったのかは定かではないが、実際S9のリリースから2年以上たっているにも関わらず未だに後継機のASICがBitmainから発表されていない。今秋にIPOを控えるBitmainだがpreIPO期にテンセントやソフトバンクがpreIPOへの参加を撤退したのも、同社がこの特許侵害訴訟に敗退し、ASIC開発のための核心技術がなかった事が原因だという見方もある。

 

この訴訟の他にもASIC製造業界の競争が激化する中でBitmainの今後の競争力に関して否定的な見解も多い。また先日の記事現実味を増すビットコインキャッシュの分裂で書いたようにビットキャッシュの分裂にまつわる混乱もIPOを控えるBitmainにとって不確定要素のひとつだ。

 

長らく飛ぶ鳥を落とす勢いで成長して来た仮想通貨業界の”巨人”の今後は前途洋々とはいかないようだ。(参考記事:救世主か破壊者か「ビットメインのIPOに関する留意点」)

 

(参考,画像出典:onchain.caijing.com.cn