国際コンテストで健闘する東欧の小国
ソビエト連邦の廃墟の上に形作られた諸国の若者たちの、素晴らしいコンピュータスキルについて、ご存知ないようであれば、過去15年間にわたる国際プログラミングコンテスト(International Collegiate Programming Contest)*1 の結果にぜひ注目してみてください。
毎年恒例の、このコンペティションでは、世界中の若いコンピュータスペシャリストのチームが、一連のプログラミングタスクを解決するために、直接的に競争するのですが、実際には実力差が明確で、競争にはなっていないように思えます。2004年以来、金メダルは毎回ロシア、ウクライナあるいはポーランドチームが勝ち取っているのです。
比較のために、アメリカチームの実績を見てみましょう。カリフォルニア大学バークレー校やマサチューセッツ工科大学(MIT)のようなアメリカ教育最高峰のチームたちは、概してオリンピアードファイナルに進むものの、多くの場合、メダルなしで終わり、はるかに小さな予算であまり権威のない教育機関の代表チームに敗れています。一方、ウラル連邦大学(2017年、銅メダル)、ザグレブ大学(2014年、銀メダル)、ベラルーシ国立大学(2013年、銀メダル)のような大学のチームが表彰台に上っています。
(*1 国際プログラミングコンテスト(International Collegiate Programming Contest):111カ国3000大学5万人の大学生が参加するアルゴリズミックプログラミングハッカソン。2019年3月開催のコンテストでは中国Huawei社がスポンサーを務めている。)
ソビエト計画とイデオロギーが押し上げた科学技術力
旧ソ連の技術的優位性は同国の歴史と共に発展してきたという背景があります。工学、天体物理学、数学といった科目がソビエトの教育システムでは分野としての研究に最も注意を向けてきました。
一方で、生徒が、国が決めた規範に疑問を持たないよう教育するため、人文科学に関連した科目にはあまり力を入れていませんでした。そのため、科学の学位を取得することは、ソビエトの教育システムでは、例えば哲学の学位よりも好ましいと考えられるようになり、より高く評価されていました。さらに重要なのは、科学技術は共産主義国家の創設のための礎石として考えられていた事です。 1920年代初頭のレーニンの電化計画から人類で初めて地球の軌道上に到達したガガーリンまで、技術進歩に対する熱狂的な姿勢は政治的イデオロギーだけでなく、ソビエト計画の最も重要な部分にも深く関係したのです。
今日、東ヨーロッパはもはやこうしたイデオロギーの担い手ではありません。しかし現在の人々は、当時から1世代隔てているだけであり、かつてソビエト連邦に属していた国々はいまだに技術力に対する敬意を持ち続けているのです。
優秀な旧ソ連エンジニアとその見つけ方
旧ソ連諸国出身のITエンジニアといえば、”高い専門性、豊富な人材、そして低コスト”といった特徴を持っています。そのため彼らはIBMや、ドイツ銀行のような、有名な多国籍企業から小規模のスタートアップまで、さまざまな企業のニーズに応えているプログラマーであると言えるでしょう。
「ソフトウェアエンジニアがイギリスで仕事をするには1時間に50~100ドルを支払う必要がありますが、東ヨーロッパ、ロシアのプログラマーが同じ仕事をした場合、1時間に20ドルで済みます。」― 2016年にロンドンで創設された優秀な人材を提供するスタートアップ企業の代表者オリヴァー・クイエ(Oliver Quie)氏はこう話します―
「そして、私のようにプロジェクトを立ち上げようとしている人々にとって、そのような安いスペシャリストへのアクセスは非常に重要なのです。」
ロシアには旧ソビエト連邦の他国と比べて熟練したソフトウェアエンジニアがいますが、既存のマーケット専門家の大半はウクライナ、ポーランド、ベラルーシの居住者です。これは、主にこれらの国々の政治情勢の柔軟さによるものです。 RingやUBERを含むいくつかの世界的に勢いのある会社は、それらの国々に事務所を開設しています。そうした企業以外の多くは地元のアウトソーシング企業を通じて仕事をするか、あるいはUpworkなどのプラットフォームを使用してフリーランスのプログラマーを見つけているようです。
【ロシアンOLちゃんコメント】
クリプト、ブロックチェーンが盛り上がり始めてから、一般のIT企業で働いていたエンジニアが、ブロックチェーン関連技術開発のスキルを習得し、この産業で活躍するようになりました。あらゆるブロックチェーンプロジェクトにおいてロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人が参画しており、低コスト高クオリティな旧ソ連諸国のエンジニアが積極的にアサインされていることが窺えます。
東南アジアにエンジニア部隊を持つ、とある日本のブロックチェーン開発企業の関係者から聞いた話では、東南アジアは、日本と時差が無く、またエンジニアが日本語を習得している場合も多いためコミュニケーションが取りやすい一方で、クオリティに問題があり、手直しが多いとの事です。
旧ソ連諸国のエンジニアは、そのほとんどが英語を習得しているため欧米の企業にとってはアサインしやすいものの、日本語が話せるエンジニアはほとんどいないため日本企業にとって旧ソ連諸国のエンジニアに仕事を頼む最大のハードルとなっています。
東ヨーロッパ、ロシアのエンジニアは、クオリティの低い仕事をすることを恥だと感じる意識があり、とても優秀だという評判を聞きます。今後、日本企業が英語に対応できるようになれば、旧ソ連諸国のエンジニアへアクセスできるようになり、コスト効率化や開発力といった恩恵を享受することができるでしょう。
ロシア・ウラジオストク出身。14歳のときに国際交流プログラムで来日した事がきっかけで、日本語の勉強を開始。極東連邦大学日本語学部に進学し、卒業後、日本の商社に就職。投資会社を経て、2018年、ブロックチェーンプロジェクトのコンサルティング業務を手掛けるベンチャー企業FEB株式会社に転職。堪能な語学力を生かして、「ロシアンOLちゃん」として、ロシアや欧州の情報をツイッターで配信する。「ロシアの仮想通貨情報をひたすら翻訳するブログ」(https://cryptorussian.blogspot.com/)も運営。