同意なしで他人のPCでマイニング 16人摘発 法解釈の基準がないままでの逮捕に非難の声も

仮想通貨を「マイニング(採掘)」するためのプログラムを自分のサイトに埋め込み、閲覧者のパソコンを無断で採掘に使用したとして、神奈川、宮城など10県警は14日までに不正指令電磁的記録作成などの疑いで会社役員ら10~40代の16人を摘発したと同日、警察庁が発表した。採掘するためのプログラムは一般サイトでも利用されることがあるが、閲覧者から同意を得ていないケースについて初めて摘発に至った。

このプログラムは採掘のため必要とされる膨大な計算処理を分担して行うためのもの。摘発されたうち14人が使用していたのはコインハイブというソフトでプログラムを埋め込まれたサイトの閲覧者は、気付かないうちにパソコンを採掘に使われ、想定外の電力消費や動作の遅延が起きる。摘発された16人は10代1人、20代7人、30代4人、40代4人で、うち3人は逮捕された。一部には既に罰金10万円の略式命令が出された。(自治通信社)

摘発されたウェブデザイナーの男性(30)は14日、東京都内で記者会見し「納得できない。何が違法なのか基準を明確にしてほしい」と主張した。男性の弁護人も「捜査で日本の技術者が萎縮すれば、国力を損なうことになる」と訴えている。男性によると、昨年9〜11月、趣味で開設した自身のサイトに、閲覧者のパソコンでマイニングさせるコインハイブを導入。計約900円分のMONEROを得た。今年3月に横浜簡裁で不正指令電磁的記録保管罪で罰金10万円の略式命令を受けたが、否認したため、今後横浜地裁で正式裁判が開かれる。

男性の弁護人の平野敬弁護士はコインハイブについて、パソコンを壊したり情報を抜き取ったりすることはないとし、「コンピューターウイルスとは異なる」と指摘。「無罪と確信している。法解釈が定まっていない新しい仕組みなのに、警察は金もうけが悪いという基準だけで不当な捜査を続けている」と批判した。(excite)

今回の警察の対応に対してネットは炎上。違法性の基準が明確でないままに逮捕に踏み切った事に対して「2000年代初頭にサーチエンジンが潰された事の再来」、「Winny開発者を逮捕した事でP2Pの開発が停滞した事の二の舞」などとテクノロジーの進歩を阻害し兼ねないと非難の声が相次いでいる。

日本ではサーチエンジンがキャッシュを置くことが2009年まで明確に合法でなかったため国産サーチエンジンの開発が停止し世界に対して遅れをとったという歴史がある。

またP2Pファイル共有ソフトのWinnyの開発者の金子勇氏を警察が逮捕した事は記憶に新しい。金子氏はデータを中継ノードにキャッシュを分散化する事でP2Pネットワークの処理速度を上げるという当時では先端的な技術を導入した。P2Pソフトの利用者を違法とする判例は世界的に多くあるが開発者が逮捕されたのは金子氏が世界で初めてだった。金子氏の無罪が確定するまでの7年間、国内のP2P技術が停滞する一方で、世界ではP2P技術を用いたスカイプなどのサービスが台頭した事は未だに多くの人々のトラウマだ。

法解釈が定まらないままで警察が逮捕に踏み切った事に対しては非難は多いものの、同意なしで他人のPCでマイニングするという行為そのものに対しては擁護する声は聞かれない。この裁判の行方は日本のテクノロジーのエコシステムの行方を暗示する。今回の摘発は日本のテクノロジー史の新たな負の遺産として残るのだろうか。