Innovators File#6 Hedera Hashgraphミアン・サミ「インターネットを再設計し、世界の情報格差をなくす」

Hedera Hashgraph (ヘデラ・ハッシュグラフ)Japan代表・ミアン・サミ氏。某世界最大手のヘッジファンドの元トレーダーは独立後シリアル・アントレプレナーとして数々のビジネスを立ち上げて来た。彼の展開するビジネスは教育事業から飲食業まで多岐に渡り、自身の不動産投資戦略は多くのメディアで取り上げられている。その経歴を見ると人々は身構えてしまうかも知れない。

しかし、そんなきらびやかな経歴の成功者が語ったのは、過去の葛藤や挫折だった。ロンドンの金融街の弱肉強食で、熾烈な競争を勝ち抜いたエリートは、リーマンショック後に、世界の金融リテラシーの格差を埋めるための活動を始める事となる。あの事件から10年、金融リテラシーの格差を埋め、世界の情報格差をなくすという強い使命を帯びたミアン氏の次の舞台は、ここ日本。世界を駆け抜けた異才と再会した我々は、ポストブロックチェーンの章に進む。

Innovators File#6 Hedera Hashgraph Japan代表ミアン・サミ「インターネットを再設計し、世界の情報格差をなくす」

‐初めにミアンさんの経歴を教えてください

私は日本で生まれ育ったのですが、両親はパキスタン人です。父が日本に来た時の所持金は10万。そこから日本の中古車の輸出事業を始めて、私達兄弟4人をインターナショナルスクールとアメリカの大学に行かせました。それを何十年も前にやった訳ですから、色々と苦労があったのだと思います。インターナショナルスクールに通わせてくれたり、年に二回は海外旅行に連れて行ってくれたりと教育や海外旅行には惜しみなくお金を使ってくれる父でしたが、それ以外のもの、例えば、家や車や贅沢品などの出費にはかなりシビアで、いわゆる贅沢は一切させて貰えませんでした。

インターナショナルスクールの同級生は裕福な家庭の子が多いため、一度父に聞いた事があります。「友達はみんないい家に住んでいるのに、なんでウチはこんな小さな家に住まないといけなの?」と。すると父は「教育は投資だけど、見栄のために大きな家に住むのは意味がない」と答えました。

また、父は口癖のように「サラリーマンにはなるな。自分のボスにならないと人生自由になれないよ」と語っており、ビジネスのやり方や信用の大切さについて、事あるごとに教えてくれました。そんな背景もあり、私は子供の頃からとにかくハングリー精神が旺盛でした。いつか経済的に自由になってやる。いつか周りの同級生のようにお金持ちになってやると。思い返してみると13歳ごろから常にどうやって自由になるかと考えていましたね。

大学では、経済と医療電子工学を専攻し、新卒で金融業界に入りました。金融業界に入った理由を正直に言うと、一番高収入だったからです。お金を沢山稼げば自由になり、いつか自分のやりたい事が出来るかも知れないと。2001年に大手証券会社に入社して初めに就いた業務は機関投資家向けの日本の金利商品の営業でした。そこでの営業は上手くいっていたのですが、何年かすると自分でリスクをとって自分で運用したいという思いが芽生え始め、セルサイドからバイサイドに転職しました。

ロンドンの大手ヘッジファンドで3,4年トレーディングをやったのですが、自分には向いていなかったですね。まあまあの成績だったのですが、スキルセット的に私の強みではありませんでした。トレードではスキルよりも欲や恐怖をコントロールする事が大事です。いくら頭の良い人でもそれが出来ないと上手くいきませんし、向き不向きがあります。

私は感情が豊かな方で、当時はまだ若かったので、トレードの度に一喜一憂していました。一度上司に「君はまだまだ未熟だな」と言われた事があります。最初はトレーディングスキルの事かなと思っていたのですが、上司はマインドセットの事を言っていたのです。

周りのトレーダーを見渡してみると、学者やクオンツの人達が多く、自分とは性格やマインドセットが違った人達でした。当時の私はスキルばかりに注目していたのですが、マインドの方が重要だと後になって気づく事になります。マーケットの相場自体が欲と恐怖により作られているので、それをより高い次元で俯瞰して観察しなければなりません。マーケットと同じように一喜一憂している限り勝つことは難しいのです。

-スキルよりマインドセットの方が重要だと実感した象徴的な出来事はありますか?

 リーマンショックです。リーマンブラザーズが破綻する二日前の日曜日に、JPモルガンがベアスターンズを1ドルで買収するというニュースが流れました。日曜日に会社に呼び出されて行ってみると、当時の私の上司が「明日大変な事が起きる」と今までに見た事のない深刻な顔をしていました。その上司はマーケットでも名の知られた天才的なトレーダーなのですが「とにかく値段は関係ない、今持ってるポジションを全てキャンセルしてゼロベースにしろ」と言いました。

まだ若かった当時の私は、これからどれだけ深刻な事が起こるのか実感が湧かなかったのですが、翌朝マーケットが開いた時には、ニュースが出回っているので相場が大荒れ状態なわけです。買い注文と売り注文のスプレッドが開きすぎて流動性が全くない状態でした。売る場合は、とにかく安い値段でしか売れなかったのですが、上司は「今は不確定要素が多すぎて安い高いと言っている場合じゃない」と言いました。

私は指示通りに何時間もかけてポジションをクリアにし、その日のPLはマイナス数十億の規模でした。それを報告すると、上司は「それで済んで良かった」とホッと胸を撫でおろしたのです。翌日、それ以上の波乱がマーケットを襲います。私の会社が入っていたビルは、全てのフロアに大手ヘッジファンドが入っていたのですが、私の会社以外ではその日、何千億もの負債を負って多くの会社が破綻しました。たった一日の違いで数十億のロスで済むか、何千億もやられて倒産するかという次元の事件だったのです。

この一件を受けて、自分はまだまだ甘いなと思いましたね。投資では自分が理解していないものに対する投資や不確定要素が多いものに投資する事もあります。それ自体は悪い事ではないのですが、不確定要素が大きくなっていった場合には、値段関係なくポジションをリセットしなければならないものなのです。

それ以降マインドセットを変えて、感情をコントロールする枠組みを作りシステマティックに投資をするようになりました。私の個人資産を見ても、2008年がボトムで、リーマンショック以後は私の個人資産は増え続けています。マインドセットだけでこれだけ変わるものかと実感しました。

-「親子で学ぶ金融リテラシー講座」の活動をされていますがキッカケを教えてください

 リーマンショックの後に「お前ら金融野郎のせいで世界がこんな事になってしまった。」と多くの人達から非難され、実の兄弟からもバッシングを受け不甲斐ない思いをして過ごしました。もちろん金融業界の責任は感じています。一方で、金融業界以外の世界を見渡してみると、世界のあらゆるところで戦争や紛争があり、リーマンショックがなかったとしても世界中で格差が広がり続けています。

なんで格差がなくならないのだろうと考えていたのですが、情報の格差が一番の原因だという結論にたどり着きました。インターネットがあったところで、良い情報と悪い情報の区別は難しく、悪い情報を良く見せるマーケターが勝ち、フェイクニュースが選挙を左右する時代です。

そのため、情報の格差をなくすために、正しく質の高い情報を発信して行きたいという考えが芽生え始め、2009年頃から私の専門の金融についてのリテラシーを向上させるための活動を始めました。コミュニティを作ったり勉強会を開いたりという活動を続けてきましたが今回の出版によってこれまでの活動を形にする事が出来ました。

-日本の金融リテラシーの現状をどうみていますか?

 まず主観的な意見を述べますと、世界に比べて圧倒的に低いと思います。”知るぽると”のレポートを見ても定量的に低いという強いエビデンスがあります。色んな理由があると思うのですが、一番の原因はお金について話さない、話してはいけないからです。例えば、ブロックチェーンをより深く知るためには、ブロックチェーンについて話し、議論をし、情報交換をしないといけないです。それが学びです。しかし、日本では毎日お金を扱うものにも関わらず、お金について話してはいけない。それでは勉強出来る訳がありません。

先日ユダヤ教の友人と話したのですが、ユダヤ教では小さい頃からお金についての議論を家庭でします。また、日本の家庭では子供が学校から帰ってくると「今日は何を学んだの?」と聞きますが、ユダヤ教の家庭では「今日は学校でどんな質問をしたの?」と聞くそうです。受け身ではなく、自分から知識を取りに行くという姿勢を小さい時から潜在意識に植え付けるのです。

 

 

‐幼少期からお金について教える事の重要性について教えてください。

幼少期から金融リテラシーを学ぶ必要性に関しては、科学的根拠もあります。お金をタブーのようにして汚いものとして見做していたら、潜在的にお金持ちになろうとしません。トレーディングでもそうですが人間は案外、潜在意識や無意識の中に生きているものなのです。

脳科学的な見地から話しますと、潜在意識は6歳までの大部分が決まると言われています。親が借金について喧嘩をしていると、借金という言葉とその時の周りの情報やエネルギーが括りつけられて、潜在意識に埋め込まれます。人間は社会性を身に着けるために、小さい頃に周囲の情報に対して全開放で潜在意識に取り込み、13歳までにはその人の潜在意識や人格が完成します。所謂、クリティカルエイジというのが13歳です。お金をタブーで汚いものと潜在意識に刷り込まれてしまったら手遅れです。

-親御さんにも参加してもらう理由は何でしょうか?

タバコをやめようと思っても、家族がみんな吸っていたら禁煙なんて無理ですよね。同じようにせっかくお金について学んでも、家族にお金の話をするなと怒られたら意味がありません。だから、私は親子で学ぶセミナーを通じてお母さんお父さんにも参加してもらっているのです。

-ミアンさんは日本と海外を行き来し活躍されてきましたが日本はこれまでの20年でどう変わりましたか?

まず、一概に日本を一括りには出来ないと思います。東京都心部以外の地方に関しては、正直こんなに変わらなくていいのかと思う事はあります。東京に関しては、外国人を積極的に受け入れて滞在しやすいように変わってきていますね。駅の看板でも英語表記が多くなってきていますし、私は永住権を取るのに22年かかりましたが、今は数年で取れるケースもあります。

私の主観的な意見ですが、都心部では表面上は外国人に対してオープンになって来ているとはいえ、ディープダウン(本音)、心の奥底の部分はあまり変わっていないというのが正直な所です。私が日本で生まれ育ち、いくら日本語をしゃべろうが、どんなに日本の文化を知っていようが、あくまで外人として扱われますし、今でも疎外感を感じる事があります。

ただ、これは悪い事だとは思っていません。日本は歴史的に独自の文化を保ちつつ、外国の良いモノを取り入れてきました。アメリカのように何に対してもフルオープンにするというやり方もありますが、アメリカにはない日本の良さや美徳がありますし、古き良き日本を保ちつつ、海外のモノを取り入れるスタンスは正解だと思います。実際に、これだけ世界中の多くの人達が日本を好きなわけですから。

リーマンショックの前までは、東京に来ている富裕層の外国人と言えば、金融業界の人か外交官でした。しかし、最近ではテック系の人など色んな業種のプロフェッショナルが多く日本を訪れています。私の周りの外国人は皆、日本が大好きで、日本を悪く言う人は一人もいません。日本の未来は明るいと見る企業も多いです。

 

 

‐日本の未来をポジティブに捉えてる理由は何でしょうか。

まず、住みやすくて安全で文化もある。また、マーケットも大きく、ニューヨーク、ロンドン、香港に比べると、物価や不動産はまだまだ安く、不動産の利回りも高いです。欧米企業の駐在員がアジアの拠点を選ぶ際には現実的な選択肢として日本、香港、シンガポールの3つの中から選ぶ事になりますが、香港は絶対に嫌だという人が多いです。特に家族の持ちの人は。自然もなければ公園もない。何より汚染が酷く子育てをするような環境ではありません。シンガポールは季節がひとつしかなく文化もそこまでありませんが、家族で住むには良い環境なので人気です。最近は東京もどんどん選ばれるようになって来ています。日本に来る駐在員は任期が満了しても、戻りたくないと言う人が圧倒的に多いですね。

ただ、外国人は口をそろえて日本でビジネスするのは大変だと言います。ビジネスのやり方やプロセスや文化も違いますし、空気を読んだり、非言語的なコミュニケーションをくみ取って相手の意図を察する事が出来なければ、日本でのビジネスは上手く行きません。日本のビジネスの文化に合わせたり、日本人の部下を育てモチベーションを上げるのが大変だという声も多く聞きます。繰り返しますが文化の違いが悪い事ではありませんし、それが出来るのは私の強みでもあります。私の人生を振り返ってみても日本と世界を繋げるという業務をずっとして来た訳ですから。


(画像出典:hederahashgraph.com

-ハッシュグラフとの出会いを教えて下さい。また仮想通貨に関してはどう考えていますか?

人類の歴史を振り返ると、ある紙幣が滅びる度にゴールドに戻るという事を繰り返してきました。技術の進歩により、ようやく金以外のものが出て来たという意味ではビットコインには注目していました。また、金融リテラシー向上のための活動の中で、お金の歴史の話をする際にはビットコインは避けて通れません。でもビットコインやブロックチェーンの話をすると

「ブロックチェーンって普及したら電気代が足りなくなるんでしょ?」

「ビットコインってマイナーが力を持っているんでしょ?」

といった質問が子供たちから来るのです。考えてみれば普及すれば普及する程、資源を使う技術なんて過去になかった訳ですし、これじゃないなと思うようになり、ブロックチェーンの課題を解決した技術を調べていった結果、ハッシュグラフに出会ったのです。

ハッシュグラフはブロックチェーンの課題を解決した、速く、公平で、セキュアな分散型台帳の技術です。技術的にも優れており、インターネットを補強して、次の次元に持って行くポテンシャルがあります。ただ、私が携わる事に決めた一番の理由は、開発者の想いに共感した事です。ハッシュグラフの創設者のリーモン・ベアードはたった2年9か月で、コンピューターサイエンスで世界最高峰のカーネギーメロン大学のphDをとった本物の天才であり、リーモン・ベアードはかねてより「インターネットの中にそれぞれの人が自分の世界を作れるのではないか。何故作れないのだろうか」と考えていたと言います。

インターネットはあっても、人々はメッセージをやり取りする時にはどこかのアプリを使わないといけないですし、何か取引をする際にもアマゾンや銀行を通さないといけない。 ハッシュグラフの技術が広まれば第三者の仲介がなくても、誰しもがインターネットの力をフルに活用できるようになります。

ハッシュグラフの開発会社のSwirldsという名前は、インターネットの中で自分の世界を好きなだけ作ろうというアイデアに由来しています。その人の経歴や人種、資産背景に関係なく、地球上の誰しもが自分の世界をインターネット上に作り、他の人と直接つながる事が出来るようにするという構想です。このアイデア自体は昔からあったものなのですが、ハッシュグラフの技術により初めて実現可能になりました。この構想が実現すれば本当にすごい事が起こると思いハッシュグラフに参加する事にしたのです。

-最後に人生のビジョンを聞かせて下さい

私の専門は金融なので、金融リテラシーの差を埋めるという活動をこれからも続けていきますが、最終的には世の中の情報格差をなくす事が私のライフビジョンです。そのためには、難しい事を難しく伝えていても知識格差を埋まりません。一流の学者や大学教授でも難しい事を簡単に教える事が出来る人は世界でもごくわずかですし、IoTやコンセンサスアルゴリズムを子供にでも分かるように説明する事はほとんどの人が出来ないと思います。

一方で、自己啓発のカリスマと言われるアンソニー・ロビンスは難しい話を比喩やたとえ話を上手く使い、誰にでも分かるように話します。ハッシュグラフの創設者のリーモン・ベアードとは2週間に1度ハッシュグラフの技術についてミーティングするのですが、彼も難しい概念を本当に子どもでも分かるように伝えてきます。そういった所からも、リーモンは他の人とは違う次元の知識を持っているのだと感じます。簡単に説明するためには本当に深く理解していなければなりませんから。

その意味では日々子どもに助けられています。子供はシンプルな事を聞いて来ますよね。

「パパはなんで毎日働いてるの?」、「お金ってなに?」、「なんでこの人は捕まったの?」と。

私は子供に上手く伝えられなかった時は調べなおしたり、勉強しなおしたりして知識をより深くしています。私は分散型台帳やハッシュグラフのコンセンサスアルゴリズムのような難しい概念を説明する時は燃えるのです(笑)この概念を子供にでも分かるように伝える事が出来たら、この分野で第一人者になれるかも知れないし、自分のライフビジョンである世界中の知識の格差を埋める事にも近づくのではないかと考えているからです。

SamiTV ではミアン氏が自ら金融やお金について分かりやすく動画で解説しています。「そもそもお金って何?」「金融システムが破綻したらどうすればいいの?」基本的なマインドセットの話からテクニックの話まで網羅するSamiTV は必見です。

7月25日出版のミアン・サミ氏の初書籍も要チェック。