「ブロックチェーンは未だに人々の生活を何も変えていない。」昨年の11月にイーサリウム創設者ヴィタリク・ブテリンによりTwitter上に投稿されたこの発言は、投機熱に沸く仮想通貨業界に大きな波紋を呼んだ。ある人は水を差すなと苛立ち、またある人は冷静さを取り戻すきっかけと捉えた。
資本主義においてイノベーションが起きるには、まず「富の大移動」、「バブル」そして「詐欺の横行」が先行する。ジョン・ロックフェラーがリライアブルな石油精製能力を証明するまでの間、19世紀末の石油業界は無遠慮な山師や疑似化学者達の温床で、インターネット黎明期に人々が目にしたのはIT長者、ドットコム・バブル、そして訝し気に眉をひそめるオールドエコノミー達だった。
インターネットが人々の生活を変えたように、ブロックチェーンは人々の生活を本当に変えるのか。ビットコイン長者や混合玉石のICOの後に人々は何を目撃するのだろうか。
この問いに対して「ブロックチェーン×エモーショナル」というユニークなアプローチをする起業家がいる。株式会社ISSHO代表取締役・高瀬俊明氏が提案するのは「ブロックチェーンを活用した世界で唯一の文字列が刻印された指輪」。同社のエンゲージリングやベビーリングには贈り主の「想い」が込められている。「想い」は文字列に変換され、指輪に刻まれると同時に改ざん不可能な形式でブロックチェーン上に永遠に保存される。
Innovators File#3 ISSHO代表取締役・高瀬俊明氏がブロックチェーン業界に寄せる「想い」とは。
Q:初めに簡単に経歴を高瀬さんの教えて頂けますか?
高瀬:大学時代の専攻は機械工学でした。ボート部に所属していたので、毎日部活漬けで、早朝から一限が始まるまで練習して授業が終わってまた夜に練習するといった生活でした。卒業後は化粧品会社で3年半ほど営業をしていたので、それまではITとは無縁の生活でした。その後、とあるIT系ベンチャーの設立に参加し、その会社の紹介でブロックハイブ社(エストニア)の仕事も手伝うようになりました。そこで、ブロックチェーンに出会ったのですが、調べていく過程でデータの一次性を取り扱える側面などを知って、「他のものとは様子が違うぞ」とのめり込んで行きました。
Q:ISSHOを立ち上げるきっかけは何だったのでしょうか。
高瀬:私がビットコインに出会った2016年は非技術者がブロックチェーンの技術に触れる機会は仮想通貨くらいしかありませんでした。そのため、一般人でもブロックチェーンに触れる機会を作りたいと考えていました。「まだ一般の人がブロックチェーンに気軽に触れられるフェーズではないけれど、その中でも出来る事はあるだろう」と。それを踏まえてブロックチェーンはどんな事に活用できるのかと議論していく中で、エモい事をやりたいと案を出していった結果、指輪にたどり着きました。
Q:どのようなサービスを展開していくのでしょうか。
高瀬:今は指輪にコントラクトアドレスを刻印して、そのアドレスに対して一つのテキストメッセージを記録する仕様ですが、今後は、誕生日や記念日などが来るたびに、ブログのように更新出来るようにして行きます。ライフイベント毎にテーマに沿ったテキストメッセージの追記する事で、末永く使って頂けけるようなサービスにしたいです。また、将来的には指輪以外の製品にも展開していく事を検討しています。送別会などの機会に感謝の気持ちを刻印した贈り物を用意して、手紙を書くように感謝や気持ちを伝えるといった事も出来ればと考えています。
Q:今後のこの業界はどのように進んでいくと考えていますか?
高瀬:私達はブロックチェーンとエモーショナルな事を掛け合わせたサービスを展開していますが、デジタルアセットなどの守られるべき情報やスマートコントラクトはブロックチェーンに置き換わっていくと考えています。時間はかかると思いますが、生活者のレベルでも徐々にブロックチェーンは浸透していくのではないでしょうか。
また、これは個人的な意見ですが、今後は企業の力が弱まって、コミュニティの力が強くなっていくと考えています。それぞれ自分の持つ志向性に合わせて複数のコミュニティに所属して活動していくというスタイルが新しい社会の構造になっていくという考えです。私の場合、会社としてはブロックチェーンというコミュニティに属していますが、それ以外のコミュニティにも属しています。ひとつの会社にだけ所属するという生き方はもういいかなと。
Q:最後に高瀬さんのビジョンをお聞かせ下さい。
高瀬:実は、何か大きな事を成し遂げたいといったビジョンはないのです。ただ子供の頃の自分のクリエイティビティを取り戻したいという想いがあります。幼少時代を思い返すと、図工や美術の時間など創造力を発揮する機会が多かったのですが、社会人になってからは目の前の仕事をこなすのに精いっぱいで、そういった機会がなくなっている事に気づいたのです。ISSHOに関わってくれる人達にもただ仕事をこなすのではなく自身のクリエイティビティを発揮して欲しいという想いがあります。
現在CAMPFIREでクラウドファンディング中のISSHOのプロジェクトの全容をチェック⇒https://camp-fire.jp/projects/view/73111