2014年世間を騒がせたMtGoxハッキング事件。良くも悪くも世にビットコインを知らしめたこの仮想通貨取引所の創設者のジェド・マケーレブは黎明期の仮想通貨業界をリードした人物のひとりだ。
画像:jedmccaleb.com
最盛期には数千万人の利用者がいたと言われるP2Pファイル共有ソフトeDonkeyの開発者でもある彼はビットコイン出会う以前から「決済のためのインターネット」の構想を持っていた。黎明期に活躍した多くのビットコイナー達と同じように既存の金融システムにおける国際決済のスピードの遅さ、非合理性に対して疑問を抱いていたという。
ジェドは「決済のためのインターネット」を語る際にemailにおけるSMTPを例にあげ、国際決済の場においてもSMTPのように基盤となるオープンプロトコルの必要性を説く。
「SMTPという相互運用の際のスタンダードが出来たおかげでGmailとYahoo mail間のように異なるフォームや異なるOS間でのメールの送受信が可能になり、emailが世界的に普及する事となった。決済の場においてスタンダードとなるオープンプロトコルが必要だ。」(Distributed Market)
SMTPをアナロジーとして挙げる一方で決済の場合メールのように事が単純ではない事を理解していた彼は、決済における国際ネットワークを構築する際の課題として以下の4点を挙げている。
1.価値の移転をどう担保するか。
2.世界に存在する異なる通貨やバリューを一どうデジタルに表現するか
3.国家間、通貨間での互換性
4.世界中の人々が扱えるようにどうやってスケーリングさせるか
ジェドはビットコインに出会うまで、1の「価値の移転」の際に生じうる二重支払いの問題をエンジニアリングを通じて解決する事は不可能だと考えていたためビットコインの知った時の事を非常に興奮したと語る。
ジェドはサトシ・ナカモトのビジョンや二重支払い防止する普遍的なパブリックレコードを素晴らしいイノベーションだと称賛する一方で、ビットコインにより価値の保存は出来ても国際的な決済ネットワークの統合する事は出来ないと考えていた。またマイニングによる同意形成のアルゴリズムも受け入れられなかったという。
「始めてビットコインに出会った時はスーパークールな発明だと興奮した。世界中の人々がこれを受け入れたら素晴らしい事が起きるのは明らかだった。ただビットコインのマイニングに関しては常に煩わしく思っていた。明らかに非効率だし、コンセンサスのために莫大な資金を費やすのはバカけている。そのため私はコンセンサス問題を解決するための代替案を模索するようになり2012年からRippleの開発を始めたんだ。」(TLV Fintechにて )
彼は2007年にマジック・ザ・ギャザリングのオンライン交換所として設立したMtGoxをビットコインの交換所にシフトするのだが2011年マーク・カルプレスにMtGoxを売却し、かねてより抱いていた構想であるより良い「国際的な決済のネットワーク」を構築するためにRippleの開発に取り掛かかる。
だがここでのキャリアが長く続く事はなかった。真の意味で分散化された通貨を作るという構想の彼とRipple社との間にはディレクションの齟齬があった事が伺える。
「元々RippleはAirDropで出来る限り多くの人々に配布するというビジョンがあったのだけど、彼らはそれをしなかったし適切なディレクションをしているとは思えなかった。」(同上)
結局ジェドは2013年までRippleのCTOとして従事した後にRippleを離れStellar財団を設立する事になるのだが、彼のビジョンである「可能な限りオープンで、中立的なネットワーク」を構築するためにStellar開発財団をNPOとして始動させた。発行量の大部分をRipple社が保持しているXRPに比べStella財団が保持しているトークンは5%に過ぎない(これが少ないととらえるかは人次第だが)。
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StellarのプロトコルはRippleそれをベースに構築されているがコンセンサス形成などで幾つかの改良が加えられており決済速度がRippleよりも迅速で個人間のマイクロペイメントに焦点が当てられている。またイニシャルで1000憶枚発行された後に毎年1%供給量を増やす事で極端なデフレを抑制する仕組みになっているのもStellarの特徴だ。
彼の経歴を一見すると、移ろいがちで気まぐれな人物象を想像するかも知れない。実際に黎明期には彼はしばし不相応な批判のターゲットとなっていた。しかし「真に分散化された公平で普遍的な決済ネットワークを構築する」という彼のビジョンは一貫して揺ぐ事はない。幾度となく”権力者側”に回る機会がありながらそのポジションを放棄して来たのだから。
人々は仮想通貨の業界にて多くの開拓者たちが権力者になり替わっていく様を目撃して来た。そして未だに世界を変えるような真に分散化された公平かつ中立的なオープンプロトコルを人々は知らない。
現在ステラの時価総額は8位。多くのビッグプレイヤーが参入し市場が膨張する中で、彼は依然としてこの業界で最も影響力のある人物の一人だ。シンプルで力強い彼のビジョンには見る人すべてが感化させられる。