【私のクリプト履歴書#2 】秋山繁雄「ブロックチェーンにより開かれるダイヤモンド市場」

元々、金融やITに強く、スタートアップ大国としても知られるイスラエルは、仮想通貨・ブロックチェーン業界でも大きな存在感を示しています。

 

私のクリプト履歴書#3では、CEDEX日本代表の秋山繁雄氏に、金融業界出身者の視点から見る仮想通貨・ブロックチェーン業界やイスラエルのスタートアップの事情についてお聞きしました。

 

-まず秋山さんの経歴を教えてください。

 

元々私はFX・証券会社に在籍しておりまして、2007年にFXオンライン・ジャパン、現IG証券という会社に入社しました。イギリス本社のIG証券は、グローバルで外国為替、株式、株価指数、債券、金利商品、商品(コモディティ)などの金融商品を差金決済だけで行うCFD(Contract For Difference)取引のサービスを提供していましたが、FXオンライン・ジャパンを買収した事で、私もCFD取引に携わるようになりました。仮想通貨も今後、デリバティブ商品に展開するのかという議論がありますが、その点では、当時の経験が生きています。

 

 

その後、IG証券を退職し、別の証券会社に転職する事になるのですが、ちょうどその証券会社がイスラエルの金融システム会社であるTechFinancials社のシステムを日本市場での導入を進めているところでした。結果的にその会社では導入できなかったのですが、当時のメンバーと共にTechFinancials社の日本販売代理店を設立し、日本の金融機関に営業し始めた事がきっかけで、イスラエルと関わるようになりました。

 

-仮想通貨との出会いは?

 

2年前にTechFinancials社との契約を終了する事になるのですが、その時に、あるFX会社の方から「来年、仮想通貨の法律が施行されるので一緒にやりませんか」といったお誘いを受けた事が、仮想通貨業界に携わるようになったことの発端です。

 

始めは、仮想通貨を詐欺くらいにしか思っていなかったのですが、これから規制が出来るのならば、変わって行くのかも知れないと思い、自分なりに調べるようになり、セミナーや勉強会に積極的に参加するようにしました。

 

最初に出席したイベントでは、とある仮想通貨取引所の役員の方が登壇されていて、金商法の事などを細かくお話されていていました。「仮想通貨の人達も金商法をしっかりと勉強しているのだな」と、仮想通貨業界に対する見方が変わりましたね。

 

私はあまり社交的な者ではありませんが、イベントやセミナーに出席する時には登壇者の方と名刺交換をしたり、席の近かった人のお話を聞いたりといった事をできる限り積極的に行いました。

 

いま思い返してみると、そうしたご縁でアンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合先生やOmise Japanの柿澤さんのような、後に業界を牽引していく事になる人達と知り合う事が出来ました。

-仮想通貨・ブロックチェーンのどこに惹かれたのですか?

 

20年前にFXができた事で、為替が個人投資家でも取引できるようになり、FX業界は盛り上がりを見せました。10年くらい前までは、FX業界自体が未成熟で、経営者が横領して逃げた、といった不祥事も多くありました。今の仮想通貨業界は、ちょうどその時のFX業界とオーバーラップするところがあります。

 

 

当時のFX業界の人達は金融庁と真向から議論しながら、新しい業界を作って行くという熱気を帯びていました。ただ、今のFX業界は規制で雁字搦めになってしまい、金融庁に対して事業者が意見を言う事も出来なければ、新しい事をするといった雰囲気もなくなってしまいました。

 

仮想通貨が”何だかよくわからないデジタルな”モノ”から始まり、金融商品として扱われるようになり、市場が育っていくという点では、刺激的で面白かった当時のFX業界と重なります。また、この業界で会う人達は皆、頭がよく面白い人達が多いので、そういった人達が仮想通貨に魅了されていくといったところに、私もまた魅了されていきました。

 

-イスラエルとの関わりについて教えて頂けますか?

 

TechFinancials社のコアチームがイスラエルにいるので、その関係でイスラエル人と仕事をするようになりました。私が今お手伝いしているCEDEXというブロックチェーン・ダイヤモンドの取引所プラットフォームもTechFinancials社が技術提供しています。

 

 

5年ほど前は、イスラエル系のイベント会場でもイスラエルに行った事があるという人はあまり多くいませんでしたが、今は増えてきましたね。仮想通貨業界の人達の中でもイスラエルへの関心度は高く、また、イスラエル人の元々の起業家気質や、エンジニア大国という背景もあって、仮想通貨・ブロックチェーンやICOはイスラエルと相性が良かったのだと思います。

 

-イスラエル人の気質や国民性について教えてください。

 

一概に言う事は出来ませんが、イスラエル人は0から1を作るのが得意で、日本人は1から100が得意と言われています。彼らは”出来る”と確信を持ったら、勢いよくスタートを切れます。ただ、その後どうやって拡大していくかというのは苦手ですね。毎日同じ業務をこなしたり、プロジェクトの進捗を管理したりするといった事に関しては、そもそもあまり関心がない人達です(笑)。

 

 

彼らはアイディアを着想すると、すぐに行動に移しますが、たとえ起業して事業が失敗しても、それを失敗と思わないのです。失敗の経験をもとにまた次に生かせば良い、という考えが根底にあるので、何度も繰り返していくうちに、結果的に強いものが出来ていきます。そのため、イスラエル人は40代50代になっても起業に対する情熱を持っています。

 

 

また、イスラエル人は、常に他人より自分の方が良いものを作れるというプライドをもっています。「なぜ外国のものを使わなければならなのか」とか「アップルを使わないけど、グーグルはまあ良い」と嘯く人も見かけます。彼らと話していると、荒唐無稽なアイディアも多々ありますが、その中からはGAFAのような大企業に導入されるものも生まれるわけですから大したものです。

 

イスラエルでは兵役があり17、18歳から軍隊に入るので、それに基づく精神的な強さを感じる事は多くありますね。ちなみに、イスラエルでは兵役で軍隊にいる間に起業できる制度もあります。そのため、エリートは兵役中に起業して、落ちこぼれが大企業に勤めるといった認識すらあります。

-イスラエルから学べる事は何があるでしょうか。

あらゆる面で日本と真逆だと思う事はよくありますが、直面している課題や置かれている環境に共通するものもあるので、日本が見習う事は多いと思います。たとえば、少子化問題です。イスラエルは出生率3人台を40年以上に渡ってキープしていますが、これは日本の戦後のベビーブームが40年続いているようなものです。

 

子育てを合理的に行うという姿勢がその遠因にあるのかも知れません。イスラエルに滞在していた時に、同僚の女性が子供二人生んだのですが、出産時に休職していたことに私は気づかず、気づいたら子供が出来ていたといった感じでした。男性も当然、育児に携わります。彼らはいかにして仕事と出産・育児を両立するかという合理性を追求しているのです。

 

それもあってか、イスラエルでは女性も男性と同様に働いていて、組織の代表やマネージャークラスも多くいます。ある時イスラエルのCEOと日本企業を一緒に周った際、彼から「日本では女性は働いていないのか?」と言われた事もあります。

 

イスラエル人の合理性を追求する気質は生活の様々な場面で見て取れ、自動掃除ロボットのルンバの普及率も世界一と言われいます。

 

一方で、日本には”苦労をする事”に対する美学がありますよね。料理は手の込んだものの方が美味しいだとか、家事に関しても、楽をしていると許されない、といった風潮が未だに残っています。テクノロジーを用いて、いかに生活を楽にするのかという事は、技術の進歩にとって重要な要素ですので、そういったところは見習うべきかと思います。

 

-CEDEXについて教えて頂けますか。

CEDEXはブロックチェーン技術を使い、ダイヤモンドを金融商品のように取引できるシステムとマーケットを作るというプロジェクトです。

 

プロジェクト自体が発足した昨年の1月の時点では、ブロックチェーン技術を使うプランはありませんでした。しかし、開発を続けていくうちに、耐改ざん性や透明性のあるブロックチェーンを導入する方向に舵取りしたのです。

 

日本も含め世界ではダイヤモンドを取引する場合、金融商品でもコモディティでもないため仮想通貨に似ている側面もあります。ダイヤモンド市場は巨大ですが、これまでオンラインでのBtoC取引は実現していませんでした。ダイヤモンドの値段は、金のように重量単位で値段が付くのではなく、一石ごとの鑑定書に依拠するためです。

 

 

ダイヤモンドを鑑定書に紐づけトークン化すれば、オンライン上でも信頼のあるマーケットを作る事が出来ます。

 

また、IDEXというBtoBのダイヤモンド取引所があるのですが、CEDEXはそこの過去の取引履歴を参照する事によって、鑑定書に基づいてダイヤモンドのプライシングを行い、適正価格を評価します。これにより、そのダイヤモンドが割高なのか割安なのか、といった事が個人投資家でも分かるようになります。また、これまでは個人がダイヤモンドを売ろうとしても、業者に安く買い叩かれてしまってしまうものでしたが、個人間の取引市場が出来れば、二次流通の流動性も上がります。ダイヤモンドの現物取引を受け取ることも出来ますが、差金決済(CFD取引)のサービスの提供も主に準備しています。

 

-最後に秋山さんビジョンについて教えてください。

 

私は何か新しいものを開発するといった事は出来ませんが、仮想通貨やブロックチェーンのプロダクトをどうやって、法規制をクリアし、金融商品として世に出していくかという側面からサポートしたいと考えています。

 

よく、仮想通貨の法規制はFX業界の法規制の経過を踏襲すると言われています。FX業界で10年かけて起きた事が仮想通貨では1年で起きるといった違いはありますが、違いと類似性を見誤らない事が重要です。私のFX業界での経験を生かして、業界の人達にお力添えが出来ればと考えています。

 

仮想通貨・ブロックチェーン業界にはまだまだ金融の人達が少ないですね。ミスビットコインの藤本真衣さんが設立した仮想通貨・ブロックチェーン特化型転職支援サービスのwithBに私が参加させて頂いたのも、業界の発展のために、もっと金融業界のプロの人達に、サポートして貰いたいという想いがあったからです。金融の人達は技術の面や新しい業界に対して誤解や偏見があったりするので、両者の溝を埋めていきたいですね。

 

【秋山繁雄】

・テックフィナンシャルズ合同会社 代表社員

・イスラエルの金融システム会社TechFinancials.Inc(LSE:AIM市場上場)及び、同社子会社CEDEX の日本代表を兼務。また、仮想通貨・ブロックチェーン業界特化型の転職支援サービス、株式会社withB のコーディネーターとして、主として金融業界の人材を仮想通貨・ブロックチェーン業界へ紹介。