エンジニア大国として知られるロシアですが、仮想通貨・ブロックチェーン業界でもロシア出身のエンジニアの活躍は目覚ましく、彼らを抜きにこのテクノロジーを語る事は出来ません。
そんなロシアですが、情報量が少ないために、興味はあっても、あまりよく分からないという人も多いかもしれません。
今回はロシアンOLちゃんに、ロシアやCIS諸国の業界事情や今度のトレンドについてお聞きして来ました。
-簡単にロシアンOlちゃんの経歴を教えて下さい。
私はロシアのウラジオストク出身で、日本を初めて訪れたのは14歳の時です。私の通っていた学校には、国際サマーキャンプという国際交流プログラムがあり、14歳の時にそのプログラムを通じて、富山県に一週間滞在しました。それがきっかけで、日本の事が大好きになり、日本の事をもっと知りたいという思いから、日本語の勉強を始めました。
その後、大学で日本語学部に進学し、ロシア大統領奨学金で一年間日本に留学させてもらう事も出来ました。卒業後、日本の商社とPEファンドで働いた後に、今年からブロックチェーン関連のコンサルティング業務を手掛けるベンチャー企業に転職しました。現在は、仮想通貨メディアでのライティング、国内外イベントで登壇やモデレーター、海外パートナーとのコミュニケーションをメインに活動しています。
今年で日本に来て8年目になるので、今思えば、14歳の時にたまたま参加したあのサマーキャンプは、私の人生にとって大きな転換点となる出来事でしたね。
‐故郷のウラジオストクについて教えて下さい。
今はロシア全体で親日的な雰囲気があると思いますが、特にウラジオストクのある極東地域では日本人に会うだけで喜ぶような親日的な人が多いです。
本願寺や与謝野晶子の記念碑なども残っています。地理的な要因もあってか、モスクワやサンクトペテルブルクに比べると、ウラジオストクの人は日本を正確に理解していますね。日本語を勉強している人も多く、みんなチャンスがあれば日本に行きたいと言います。
また、2018年は、日露間の人的交流の拡大を促す方策の「ロシアにおける日本年」なので、ロマンチックロシアなどの展示会や、映画祭などを通じた文化交流のイベントが多い年でした。2012年から始まったAPECも日露企業のパートパーシップの活性化に一役買っていると思います。ウラジオストクには丸紅やH.I.S.のような日本企業の支社も多くあります。
「サンフランシスコに似ているウラジオストク市は海と坂と風の街であり、展望台からこのような景色の街となります。」
「ウラジオストクの都心にも漁港、貿易港ともありますし、都心から車で1時間離れればブルーオーシャンがあり、夏には泳ぐこともできます。ウラジオの周りの島は自然が綺麗で、日本海と同じような美味しいカニやエビ、ホタテを安くたべれます〜」
-日本ではロシアに関する情報が少ないので、興味はあっても、正確に理解している人は少ないように感じます。
ロシアの情報が少ないために、誤解が生じる事は残念に思う事もあります。私は来日して8年になりますが、ロシアのイメージがあまりよくない事に気づきました。ロシアに行った事がある人も少ないですね。
でも、ウラジオストクはビザなしで、2時間で行ける、日本から一番近いヨーロッパですし、若い人はほぼ全員、英語が話せます。物価も安く、日本海でとれるカニも美味しいですし、先ほどお話ししたように、ウラジオストクは親日家も多いので、私がしっかり説明すると「ロシアに行かない理由がない!」と言ってくれる人も多いんですよ(笑)
ロシアのイメージを正確に伝えるために「オモシロシア」というインスタグラムアカウントを運営しています。皆さんの中でロシアのイメージが少しでもよくなれば、とても嬉しいです。(ロシアンOLちゃんのインスタグラム)
「街の都心部、アルバート通りの噴水!海沿いを歩きながら友達との会話を楽しむ人が多い。私も小さい時からみてきた景色で大好きな姿!」
-仮想通貨はどうやって知りましたか?
2年前に、とある外国人のエンジニアの知人から教えてもらった事がきっかけです。彼はインターネットを超える発明だと、仮想通貨について熱心に語っていました。
私も興味を持つようになり調べていったのですが、中央集権のないコミュニティの概念や新しい経済圏といった仮想通貨・ブロックチェーンの持つ概念やビジョンは画期的で、調べるほどはまっていきました。世界中どこへでも銀行を介さずに、少額決済ができる国境を越えたネットワークが広まれば、第三者の仲介なしに、世界中の誰もが自分の求めるサービスを得られる、といったパラダイムシフトが起きる可能性があると考えています。
もちろん、そういったビジョンがどこまで実現されるのかは、現時点で分かりません。でも、この業界には魅力的な人が多く、常に新しいニュースが入ってきて、トレンドも変わるので、毎日が楽しいですね。
調べれば調べるほど、各国の動き、大企業の導入の進歩、マーケットのサイズに大変驚いて、まず出来ることから始めようと、日本との情報の差を埋めるためにTwitterを始めました(https://twitter.com/crypto_russia)。最初はロシアの仮想通貨関連のニュースを翻訳してTwitterやブログで紹介し始めたのですが、続けているとコメントや質問も多く頂くようになり、最近はロシアやCIS以外の国のニュースも翻訳しています。
‐どのようにリサーチしているのですか?
コインテレグラフやCCNなどのニュースサイトをチェックする他、各国のイニシアティブの公式発表などの一次情報は出来る限り目を通すようにしています。CIS諸国ですと、ベラルーシのハイテクパークやエストニアのスタートアップエストニア、ロシアのブロックチェーン協会などですね。あとは、大手コンサルティングファームのレポートもチェックしたり、海外のコミュニティ(decenterなど)の記事を読む事もあります。
‐日本の仮想通貨・ブロックチェーン業界についてどう思われますか?
海外に比べると、仮想通貨・ブロックチェーンのプロジェクトの数は少ないと思います。大企業が実証実験を始めたというニュースはあっても、実際にプロダクトになっているものは日本ではほとんどないのですよね。海外では裁判や選挙に利用するという国家的なプロジェクトもあります。
また、日本では投資や技術系のコミュニティは活発ですが、ビジネス系のコミュニティはまだまだ少ないように感じます。グロ―バルなビジネスディベロップメントが出来る人材も足りていないので、成長の余地があると考えています。今までにないアイデアも含めて活発に議論できる場がもっとあったらいいな、と思いますし、個人的にも海外の情報やコミュニティとの繋がりを活かして関わっていきたいです。先日、日本で自主規制団体も発足しましたし、良い動きもあるので、日本の仮想通貨・ブロックチェーン業界には期待しています。
-ロシアやCIS諸国はこの業界でも存在感がありますね。
ロシア国内では法規制に関しては、何度も修正が加えられており、現時点では定まっていませんが、マイニングが盛んに行われており、ビットコインのOTC取引量も世界一と言われています。
ただ、他の国が仮想通貨の値段が高騰していた時期に、緩い規制をつくり、価格が暴落した事をあげて、ロシアが慎重なスタンスを取って良かったという意見もあるので、仮想通貨に関しては、これから比較的厳しい規制が入るのではないかと予想しています。
法規制に関するリスクはありますが、仮想通貨・ブロックチェーン業界にはロシアのエンジニアも多いですし、先日、Houbiがロシアに支社を開設したり、Binanceがロシア支部の代表を選任する事も発表していますので、今後も成長していくと思います。
CIS諸国のバルト三国、ウクライナやベラルーシなども仮想通貨・ブロックチェーンが盛んです。元々同じ国だった事もあり、お互いが意識しあい、良くも悪くも、競争しているといった印象です。
例えば、エストニアはITフレンドリーな規制やe-Residencyで日本でも知られていますが、仮想通貨・ブロックチェーンに関しても積極的です。昨年は、国家主導でエストコインを作ろうという動きもありました。
結果的にEUからの反対で失敗してしまいましたが、こういった取り組みによって、世界的な注目を集める事となりましたし、様々なメリットにつながっていると思います。ベラルーシやウクライナでもブロックチェーンエンジニアが多く、コミュニティが活発です。ジョージアでは電気代が安い事もありマイニングも盛んです。
‐ロシアやCIS諸国の人達が活躍する背景について教えて下さい。
元々CIS諸国では数学の教育レベルが高いという背景が要因のひとつとして挙げられます。また、ゲーマーも多いので、ゲームをやっていた人が、ビデオカードを使ってマイニングをやり始めたといった人も多くいるようです。
人件費の側面も挙げられます。高度なIT人材の単価は、同等のレベルのアメリカ人とロシア人では、4倍ほど差があると言われているので、重宝されているのだと思います。
また、ロシア人エンジニアは、欧米のエンジニアに比べると、ライフワークバランスをあまり重視せず、自分の納得いく成果が出るまで仕事に取り組む、という人が多いと言われています。休日、祝日関係なく、夜中まで議論するといった光景も珍しくありません。そういったResult Orientedな姿勢が、企業側から見るとコスパが良いという評価につながるのかも知れませんね。
‐ロシア人の気質や働き方について教えて下さい。
ロシア人は、はじめにビジネスパートナーと一緒にサウナにいったり、家族を紹介したりして、信頼関係を作ります。そういったところは日本の飲み会にも通じるところがあります。
人にもよりますが、初対面の人といきなり大きな仕事をする、といった事はロシアでは一般的ではありません。案外ウェットなところもあって、ビジネスのシーンでも感情的になる人もいるので、ロシア人と働く事に慣れていない人にとっては、はじめは働きやすくはないと思います(笑)逆に一度、信頼関係が出来れば、積極的に手助けしてくれるといった人が多いです。
‐昨今の仮想通貨市場は低迷していますが、今後の業界について一言お願いします。
損をしてしまった投資家さんの事を考えると心が痛みますし、この相場が原因で参入を断念してしまった事業者の方の事など、色々と考えてしまう事はあります。一方で、海外の動向や企業による導入例を見ると、技術的進歩のスピードは上がっていますし、技術的な側面から見ると未来は明るいと思います。
また、大企業の参入も増えています。例えば、IBMとウォルマートはフード・サプライチェーンを開発していますし、GMも自動運転のためにブロックチェーンの開発を始めています。企業の提供するプライベートチェーンの注目が高まる事で、ブロックチェーンの本来の野心的なビジョンが見直されるキッカケとなればいいな、と思っています。
‐今後はどのような活動をしていきたいですか?
最近は、日本企業向けにブロックチェーン導入の支援の活動も行っています。ブロックチェーンの啓蒙活動や、海外のブロックチェーン導入例の紹介の他に、その業界や企業にあったアドバイスをしています。こうした活動を通じて、日本の一般の企業の方々にブロックチェーンの事を理解してもらう事は、日本が今後、国際的な競争力を失わないためにも、私のやるべき事だと考えています。
また、海外と日本を繋げるためのコミュニティ作りにも力を入れています。現在は、海外のブロックチェーン・プロジェクトを日本の企業に紹介する事が多いのですが、今後は日本のプロジェクトを世界に発信する事もしていきたいです。そのための下準備として、海外のプロジェクトとのパートナーシップやネットワークも広げています。
今後は、もっと沢山の海外の情報を日本に発信していきたいですね。翻訳したい記事は沢山あるのですが、ひとりでは限界があり、追いついていないです(笑)例えば、先日、ベラルーシで仮想通貨の白書が発行されました。質が高く、翻訳すれば多くの人に役立つものだと思っていますが、量が多くてまだ翻訳出来ていないんです。また、海外の情報を詳細に伝えるためのサロンも計画しているので楽しみにしてください。
【FEB株式会社について】
日本企業向けブロックチェーン導入コンサルティング、日本、中国、韓国、東ロシアを含む、極東地域に進出するブロックチェーン企業を対象とした、オペレーション支援サービスを提供しています。
北米、ロシア、CIS諸国、中華圏、韓国、シンガポール地域にパートナーネットワークを持ち、その中で、海外クライアント及び、パートナーとの交渉を担当しています。言葉や異文化の壁を乗り越えて、海外と日本のコミュニケーションを助ける仕事しています。