クリプトカレンシージャーナルの読者の皆さま、はじめまして。NAOKOと申します。元々、私は、小さな不動産屋を経営していたのですが、ビットコインに投資を始めた事がキッカケで、紆余曲折を経て、昨年、娘を連れてエストニアに移住し、現地で起業する事になりました。
現在、エストニアにて、チコリコーヒーの貿易業や、エストニアでの事業にご興味のある方に向けた、事業開発コンサルティングを行っています。海外経験がほとんどないまま現地に飛び込んでしまったため、無駄に右往左往したり、低レベルなミスを連発したりと、色々とあったのですが、何とかエストニア引越&起業がひと段落したところです。
私なんかの体験談が、皆さまのお役に立てるのかは分かりませんが、エストニア起業&現地生活の体験を、等身大で書いていこうと思います。エストニアに少しでも興味を持っている方や、海外起業&移住を考えている方などに、参考にしていただけたら幸いです。
目次
全てのキッカケは、ビットコイン
全てのきっかけは、2012年に、飲み友達にビットコインについて教えてもらった事が始まりでした。その”飲み友達”は当時、学生だったのですが、学生ながらにアフィリエイトで不労所得を作ったり、飲食店に出資したりと、何かと興味深い若者でした。
そんな彼が、2012年に「これは世界を変える新しい決済システムだよ。少しでも買っておいたら?リミテッドサプライ万歳!」と、ビットコインについて熱っぽく語りだしたのです。
「こいつは相変わらず面白いもの見つけてくるなあ」と思いつつも、単なる飲み屋話程度に聞き流した私は、数年後、目を見張ることとなったのでした。新しい技術に対する、当時の自分の無関心さは、今の自分への戒めになっています。
私はもともと、五反田で不動産会社の経営をしていました。色々あったのですが、娘が2歳になる頃「娘が物心つく前に!」と決心して離婚して、そこから宅建資格を取得。父の休眠会社を再興して、投資物件や居住用物件の売買を手掛けるようになり、十余年が経ちました。不動産も景気によってトレンドがあるので、その時々、需給バランスや金融情勢によってのハンドリングは必要になりますが、基本的には、長くやっていても仕事内容は大きく変化しにくい業種の一つと言えます。
初めて「ビットコイン」という言葉を知ってから約7年が経過しましたが、誰もが詐欺扱いしていた当初と比べると、目を見張るような成長をしています。その間、収益物件の新築や、住宅開発事業など、ある程度の金額を動かし続けていましたが、私にとって大きな成長や、急激な変化はありませんでした。「現状維持で充分」と思って、椅子にふんぞり返って、変わり映えのない事業を繰り返してきた自分と、開拓者精神に溢れ、次々と新しい事にチャレンジしていく仮想通貨業界人達のギャップに愕然としたのです。
娘の進路まで変えたエストニアとの出会い
2017年初夏、遅ればせながら仮想通貨を買ってみた私は、暇さえあれば、例の”飲み友達”から業界の話を聞き、また、これまでになく多岐にわたる業種の投資家との方々と交流し、情報収集と勉強という大義のもとに、飲み歩きに勤しむことになりました。
そんな中、運命とも呼ぶべき出会いがあったのです。
いつものように、”例の飲み仲間”で飲んでいたところ、電話を受けた彼が、「今からエストニアでブロックチェーン関連の事業やってる人が来るよ」と言い出したのです。
「なんでエストニア?」、「そもそもエストニアってどこの国だっけ??」と、馬鹿みたいな疑問しか湧かなかったのを鮮明に覚えています。
やってきたのはエストニアのスタートアップ企業のボードメンバーの方と、その企業のエンジニアの方でした(共に日本人)。まったく知らない国だったので、とにかく興味深く、根掘り葉掘りエストニアの話を聞きました。そして、エストニアという国について、その日わかったのは、
・国民が少なく、国自体がベンチャースピリットを持って政策を打ち出している
・ITそして教育の先進国
・日本以上に治安が良い
・まだ日本人はほとんどいない
・EU圏なのに物価が安い
・母国語はエストニア語だが、公用語として英語が通じる
ということでした。
当時は、娘が中学3年生の年でした。受験に向け、高校見学や模試に明け暮れる娘に私が言い続けていたのは、「高校生の間に、最低1年は留学をした方がいい」ということでした。その方にも、娘さんの留学先を検討するなら是非エストニアも加える価値があると思う、と言われ、その日、帰宅するタクシーの中から朝まで私はエストニアについて調べ続け、起きてきた娘に一言、
「エストニアという国について調べてみなさい。どこでも同じじゃないかもしれないから」
当時娘は、将来の弁護士になるという目標をリセットして、ちょうと将来の目標を失ったような状態でした。それまでは、留学先の国について意見を求めても、 覇気のない返事ばかりでしたが、エストニアについて調べた娘の反応は、
「この国は面白い。興味深い。ここならやりたいことが見つかる気がする。留学を語学の習得で終わらせずにその先まで行きたいと思える。英語は目的ではなく手段でしかない、って実感できるようになった。」
受け身でなく、行きたいと思える国が見つかったこと、これは大きな、大きなターニングポイントになりました。
エストニアについて本気で調べてみた
そこからは、現実的にエストニア留学に向けてとにかくリサーチに入ります。
・エストニアに留学するためにはどの高校に入学したらよいのか?
・どのエージェントなら留学先としてエストニアを扱っているのか?
・そもそも高校生のエストニア留学プログラムはあるのか?
・現地の高校は英語で授業をしているのか?
調べてみてわかったことは、
・エストニアは留学大国ではないため、高校生の留学プログラムはほぼゼロ。
・現地の高校はエストニア語で授業をしているため、「英語のための留学」は難しい。
・大学生からの留学はそれなりに扱っているエージェントもあるようでしたが、高校生を対象としたホームステイ先斡旋などについても情報は皆無。
・高校生のプログラムとして唯一見つけたのは、交換留学で年間1名という狭き門…もし仮にその選考に通っても留学期間は、実質9か月…
とにかく、日本語で「高校留学」、「エストニア」を調べてもなんとも現実的な情報を得られず、なんとか見つけたのは通年生徒受け入れをしているインターナショナルスクールだけでした。
そこから、受験勉強とエストニア情報の収集を同時に進め、12月に入った頃のこと。学校では最後の進路面談、将来的に留学を視野に入れていることも担任に話し、志望校への指定校推薦願の用紙を受け取って帰ってきた夜から、それまでずっと思ってきたことを思わず娘に聞いてみました。
「中学卒業後は、そのままエストニアの学校に入学して、丸々むこうの学校を卒業するっていうのは考えてみたことある?」
私自身はごく短期の語学留学しか経験がなく、丸々3年間を海外の高校に通うには、かなり勇気が必要だと思いますし、日本の高校という進路をなくすものも大変なリスクに感じてなかなか言い出せなかったのですが、願書を提出する前に、言わなければいけない気がしたのです。
娘の答えは簡単でした。
「それができるなら、自分にとっては一番良いと思う。そうさせてもらえるなら、そうしたいよ」
受験や推薦に向けて、3年間守り続けた成績、通い続けた学習塾、最後まで続けた部活で取得した資格、無遅刻無欠席の記録…過去の努力を活かして高校入らないともったいないようにも思えてしまったのですが、本人のほうがよほど冷静でした。
「一生を見据えた長い目で見て、自分にとってベストな選択をしたい。過去への執着とか、目先の感情とかでこんな大きな進路間違うわけにいかないよ。ずっと日本の教育システムには疑問もあったし、IB(インターナショナルスクールなどで取り入れられている国際教育プログラムの一つ)のカリキュラムのほうが自分に合ってると思う」
齢15にして「損切」ができる判断力に正直驚きつつ、私も腹を決めることになったのです。
そうと決まれば、あとは本気で行動あるのみでした。目星をつけていたインターナショナルスクールに連絡、入学担当の先生にアポを取り付け、冬休みは丸々エストニアで過ごしてみることに。現地での生活と入学の目途をつけ、冬休み明けには担任に受験をするかしないか判断します、と連絡して、当然推薦願も辞退。とにかく行ってみないことには始まりません。初めての北欧旅行は真剣視察となりました。
エストニアにて起業~流れに身を任せ~
初めてのエストニア渡航のときは、日本企業のエストニア進出をサポートしてくださる現地エージェントさんを紹介してい頂いたり(留学専門のエージェントはありませんが、ビジネス進出する日本人へのサポート会社はあります)、ネットで現地在住の日本人方にコンタクトをとり、短期滞在先アパートを紹介していただいたり、学校との面談に通訳としてついてきてもらったり、とにかく色々な方の手をお借りして、無事過ごしきることができたのでした。
初めてのエストニアでは、とにかく確認事項がやまほどあって、真剣に色々とリサーチを試みました。
・インターナショナルスクールの入学手続
・ホームステイ先を探すには
・エストニアで日本人ができるビジネスは
・エストニアの不動産事情や相場、税制などについて
・生活をするにあたっての注意と利便性
・在留許可制度について
・・・・・・・などなど、
約10日の間で、かなりの量の情報を集め、いくつもの決断をしました。
まず、インターナショナルスクールは、原則、国籍、年齢を問わず、学費さえ払えば(インターなので全く安くない)いつでも編入OK。事前に言われて用意していったものは、学校の成績表のコピーに手書きで英訳を書き足したもの、パスポートの写しのみ。入学案内も願書も、紙の書類は一切なく、ネットから必要書類(正式には、日本の学校側に作成してもらう英語の成績表と紹介レターなども必要)をPDFでアップロードして申請すれば完結するとのことでした。
ですが、在エストニア外国人のための学校なので、保護者がエストニアに住むことが入学要件だったのです。娘一人をホームステイさせて学校に通わせることは諦めなければなりませんでした。そこで、現地サポート会社から受けた提案が、『在留許可取得を伴うエストニアでの起業プラン』でした。
今となっては、これがエストニアでの私の会社の主力事業そのものですが、右も左もわからない状態の初渡航にして、「とにかくここまで来たからには娘をエストニアのインターに入学させてあげたい!」というテンションと、まだまだ日本人が少ない国で先駆者としてビジネス展開のチャンスを掴めるのではないか?という淡い希望で、エストニアでの会社設立を決めたのです。
エストニアは、電子国家として知られていますし、e-residencyの導入によって、世界各国から、誰でも電子住民として登録、法人登記が可能です。ですが、実際にエストニアに居住するためには、いくつものクリアしなければならないハードルがあり、イメージ以上に難易度は高いというのが正直な感想です。現在、私の会社では、現地エージェントと業務提携を結び、エストニア進出コンサルサービスを提供しておりますので、ご興味のあります方は是非ご相談ください。
会社の設立~在留許可取得にあたって必要なことは、簡単に言えば、
・業務内容、取り扱い商品の決定
・エストニア起業との契約や提携
・エストニアでの法人口座開設
・会社としての稼働実績(6カ月以上の銀行口座のエビデンス)
・活動拠点がエストニアであることの必要性のアピール
です。
まず私が選んだ業種は、貿易業でした。各種申請を行うにあたって、
・商品によっては小さな単価から低リスクに始められること、
・各種申請先に対して業務内容の説明が容易であること、
・仕入れやリサーチのためエストニアにいることが必要なこと、
・外貨獲得を目指すエストニア政府にとってもメリットがあること、
といった理由からです。
滞在期間の中で、学校を決め、起業のためにエージェントと契約をし、取り扱い商品のサンプル収集と商品決定、というところまで終えて帰ってきたのは、ドメスティックな環境で泥臭い仕事しかしてこなかった自分にとっては大変な経験でした。
2回目のエストニア渡航は翌年の3月でした。帰国後、娘は受験戦争から早々に離脱したため、周りの友達が受験を終えるまで進路については多くを語らず、受験塾の代わりにプログラミングスクールに通ったり、英会話教室に通いながら中学を卒業しました。卒業後の3月後半、再びエストニアに行くまでの間に、法人の登記は完了しており、日本にいる間にできる下準備は整いました。
3月の主な渡航目的は
・法人口座開設のための銀行面接
・輸入を決めた商品のメーカーとの契約
・住居の確保
・学校への入学タイミングの相談と体験授業
です。
エストニアは、他の外国と同じで、現在はアンチマネーロンダリングに全力投球しているため、銀行口座開設は容易ではありません。身分証明書と登記簿の提出程度では全く足りず、通訳を連れて面接に行ったとしても、会話を通訳に任せることはできません。
自分の身分、背景、会社の業務内容、銀行口座利用のメイン用途など、自分の口で説明を求められるため、その程度の英語力は必要になります。また、この単語を口にしたら絶対にNG、この手の業種は絶対にNGというのもありますので、事前に、各種エビデンス書類の準備、面接の練習などが不可欠です。
「とりあえずネットから適当な名目で法人登記は簡単にできたから、それを元にエストニアに行ってみよう!!」というのも実は危険です。最初の登記の時点で、銀行口座が開設しにくい業種として登録してしまうと、その時点で詰んでしまうわけです。
とにかく、銀行口座開設にあたっては、数ヵ月単位での計画とエビデンス作り、正当性と必然性を明確にすることが最重要となります。また、銀行のシステムはどの国も似たようなもので、開設申請をしたにもかかわらずRejectされてしまった場合、その否決履歴が残ってしまうため、最初の申請でスムーズに開設ができるよう、最新の注意を払いましょう。
私の会社は無事それらのハードルをクリアして、エストニア法人の口座開設ができました。
エストニアで銀行口座開設を希望される方は、くれぐれも自分の判断で進めず、きちんと現地エージェントのサポートを受けることを強くお勧めします。
ちなみに、一部で、ICO関連の事業者が、安易にエストニアでの法人登記を試みていましたが、ビットコイン、クリプトカレンシー、クリプトアセットといった単語を出した瞬間、現地での銀行開設はRejectされます。ここら辺は細かいテクニックがあるので、ご興味がある方は、お気軽にご連絡下さい。
エストニアでの商材選び
輸入する商品選びですが、まだ日本ではマイナーだけれども詳しい人は知っている、という程度の知名度であり、商品単価が大きくないもの、かつ、その商品の成分だけで健康効果がわかりやすいものを選びました。それは「チコリコーヒー」。コーヒーと言っても、コーヒー豆は使われておらず、その正体は野菜として知られる「チコリ」の根っこのエキスです。
イヌリンという食物繊維を豊富に含み、血糖値を下げ、整腸作用があり、ノンカフェインでファスティング中・妊娠中・授乳中でも安心という飲み物です。こちらも、メーカーの社長とセッティングしていただき、無事に日本での専売契約を結ぶことができました。現在も、食品メーカー様、販売店様、健康食品メーカー様など、お取り扱いいただける企業様を募集しておりますので、ご興味ありましたら是非お声がけください。
エストニアでの住居探し
住居については、日本にいる間に自分で気になる物件をチェックしておいて内見希望物件をピックアップしておいて、4~5件ほど見た中から決めました。3月というと、東京では賃貸物件の争奪戦のピークで、申込が一瞬遅れたら2番手になってしまったりと、居住者の退去を待たずに上京組が申込をしてくるので、内見ができないまま物件が終了してしまうことも現場ではよく見ています。
ですが、タリンでは、人口も多くありませんし、2~3週間くらいの間に10~20件くらいの部屋数をウォッチしてきて、渡航時に終了してしまったものは1つか2つ程度でした。東京に比べれば、余裕をもって家探しができるし、それなりに募集物件も多いので、必ず、どこかしら、自分に合った住まいは見つけることができると思います。
娘の入学のタイミングは、卒業から少し時間があいてしまうけれど、新年度始めの8月からに決定しました。私の日本での仕事の兼ね合いで、6月頃に引越を考えていたのですが、6月は1週目で終了、2週目からは夏休み(学年が上がる前の休みなので、日本の春休みにあたるタイミング)に突入してしまい、学費がもったいない!と先生から言っていただけたからです。
エージェントのサポートのお陰で、2回の渡航で移住準備はバッチリ整い、いよいよ移住が目前に見えてきました。
ついにエストニアへ移住
娘の学校のスタートは8月後半。そこに日程を合わせて引越を考えていたわけですが…
日本で手掛けていたPJが予想外に長引いてしまい、10月初旬にようやくエストニア入りができました。その間、学校には事情を話して、1ヵ月遅れの入学です。が、そこはさすが転入・転出の多いインター、大変柔軟でした。(義務教育終了してますしね。小学生・中学生のお子様は、無所属期間が長くなるといけないのかもしれません)
タリンで借りた家は完全に家具付き、食器や鍋なども一通りそろっているところだったため、悩んだ挙句、スーツケースのみの引越にしました。通常預け荷物2つに加え、追加2つ、機内持込キャリー2つ、計6つのスーツケースで親子2人の海外引越完了。
私たちの場合、日本の住宅を引き払ってではなく、同居の両親を家に残しているため、最低限の服と日本食が荷物の9割。事情によると思いますが、こちらの賃貸住宅はウィークリーマンションのような家具付きが一般的なので、日本に自宅を残して移住する場合には、この方法が断然おすすめです。
エストニアに住んでいると、寒さで外出も減り、物欲も減り、シンプルな生活に順応していけるので、ちょっと違った自分に出会いました。エストニア生活の隠れた利点といえるかも知れません。IT大国と言われているエストニアですが、日常生活の中でそれを実感することは、あまりありません。ですが、少ない人数で効率よく業務を回すシステムが確立されているなぁと感じるところは確かにあります。
次回からは、いよいよエストニアに住んでみてわかったことのアレコレをテーマごとに詳しくご紹介していきたいと思います。
そのほか詳しく書きたい記事
・エストニアの税制 海外進出は本当に節税になるの?
・エストニアの不動産事情
・エストニアで家を借りた!手続きは?費用は?
・エストニアで銀行口座開設するときのポイントと注意
・個人の日常使いの銀行にはN26が便利
・在留許可申請をしてみて実際に起こったこと
・エストニアのインターナショナルスクール入学手続は?
・エストニアのインターナショナルスクールの授業内容
・実際に触れあってみたエストニア人の国民性
・IT大国と騒がれてるけど、住んでみると…
などについても書いていこうと思っていますので宜しくお願いします~
【草薙尚子】
離婚を機に専業主婦から宅建取得して起業、現在は、娘の留学を機にエストニアと日本を行き来しながら、 チコリコーヒーの貿易業や、エストニアでの事業にご興味のある方に向けた、事業開発コンサルティングを行っています。
まだまだ日本には馴染みのないエストニアですが、とても素敵な国です。海外進出、ヨーロッパの拠点作りにご興味のある方は一見の価値ありです!ご興味のある方はお気軽にご連絡くださいっ!