今回はブロックチェーンの抱える「オラクル問題」について紹介したい思う。
オラクルとはブロックチェーンの外にある情報をブロックチェーン内に移行する技術ないしシステムの事を言う。
ビットコインはブロックチェーンの技術を用いる事で分散化されたネットワーク上での「価値の保存」と「価値の移動」を実現したが、その後、他のスマートコントラクトなどにブロックチェーンを活用する事で、分散化ネットワークを構築するという試みが行われるようになった。
仮想通貨の決済の場合は、外部の情報をブロックチェーン内に持ち込む必要はないのだが、ブロックチェーンを用いたスマートコントラクトを広く実社会に応用する場合は、このオラクルが大きな課題となってくる。
例えば、情報やサッカーの試合結果や位置情報、不動産の価格などの情報を参照してスマートコントラクトを作る際、その情報はブロックチェーン内にはないので、ブロックチェーンの外から持ち込む必要がある。
技術的には比較的簡単なのだが、その外部の情報の正当性について、非中央集権のネットワーク内で同意を得るのが困難なのだ。
サッカーの試合結果や位置情報をオラクルするくらいでは然したる問題にならないかもしれないが、不動産売買やシェアリングサービス、医療保険といった複雑なスマートコントラクトをブロックチェーンで行う場合には以下のような争議が生じうる。
「カーシェアリングの代金を支払ったのに車が使えない」
「喫煙者とみなられ保険料を上げられたが、実際には喫煙していない。喫煙者の判定方法に異議がある」
「引用された科学論文のエビデンスレベルは高いものではないのに真実としてオラクルされている」
「冤罪の情報がオラクルされネットワーク内での自分の評価が下がった」
「自分の宗教を侵害した人間の評価の基準が適切ではない」
このような不正や論争が生じた場合、どちらの情報を真とするのか、また、どのようにエビデンスレベルを評価するのか、”正義”をどう定義するのか、といった問題が生じる。第三者の信用の担保がない状況下で複雑かつ業界横断的な契約を履行する場合にオラクルは避けて通れない問題となるのだ。
次に、実際のブロックチェーンプロジェクトのオラクル問題に対するアプローチを紹介したい。
1.トークンホルダーによる投票制度
AugurやOrigin protocolは、オラクルの際にトークンホルダーの投票によりその情報の真偽を判定する、という設計を採用している。Origin Protocolはプラットフォームに権力が集中しがちなシェアリングサービス業界へのアンチテーゼとして発足し、分散化された合意形成に基づくシェアリングエコノミーを創出するという。
だが、トークン保有者による投票制度を採用する場合、トークンを多く持っている一部の人間に権力が集中し情報をコントロール出来てしまうリスクがある。一部のビッグホルダーに投票権が集中してしまうからだ。また、サッカーの試合結果などの単純な情報なら、大衆に真偽を問うても良いかもしれないが、専門性の高い情報や、学術的な情報の真偽を大衆に問い、投票により判定された情報を、人々は信頼するのかという問題がある。
2.PoWによるオラクルの認証
分散化されたオラクルプロトコルを提唱するWitnetは、Witという採掘により得られる独自のトークンを持つ。Witは外部の情報をブロックチェーン内に取り込む際の認証にも使われる。採掘に費やされた電気やCPUリソースの大きさがオラクルを認証する際の与信となる仕組みだ。
しかしPoWも一部の大手のマイナーに情報の真偽の判定の権限が集中してしまうというリスクもある。
3.プロトコルによる情報の評価
OraclizeやTezosでは、外部の情報を複数組み合わせて情報の質の評価する、というプロトコルの実装を試みている。
しかし、専門性の高い情報、学術的な情報を適切に評価できるのかは未知数。外部で起こったレピュテーションの買収についてどう対処するかという問題についても言及がない。また論争が起こった場合の判決方法に関しては投票か中央集権的な決断の二択になる。
多くのブロックチェーンプロジェクトは、非中央集権的ネットワークによるガバナンスを目指しているが、非中央集権を優先しようとすると、ブロックチェーン外の、専門性の高い情報や、その真偽の白黒をつけられない情報の評価が出来なくなるというジレンマに直面する。
天気の情報も観測方法によって評価が分かれるし、科学的な論文のエビデンスレベルは、コミッションや学会がガイドラインを設定して相対的に評価する。民主主義国家における”正義”も裁判所が”暫定的”に定める。その人の人生にとって重要な情報の真偽を大衆に委ねる、という人はそう多くないだろう。
そのため、外部の情報を広く参照する必要のあるスマートコントラクトのプロジェクトは、評議会などのコミッション制度や、デリゲーター制度などを採択する傾向がある。それが良いかはともかくとして、真に分散化されたパブリックチェーンでスマートコントラクトを広く扱う事は現時点では現実的ではない。
ブロックチェーンによるスマートコントラクトを謳うプロジェクトに関しては、このオラクル問題が、その将来性や実現可能性を測る上での重要な指標となる。