世界のマイニング事業者の誘致を目指すNIS諸国の取り組み

「クリプト立国」を目指すマルタ、ベラルーシ、ウズベキスタンなど小国たちが推進する、ブロックチェーンや仮想通貨フレンドリーな規制整備や海外企業誘致などの取り組みが、未承認国家や紛争地域にまで波及する動きがあります。実行には至っていませんが、ジョージアからの独立を主張するアブハジア共和国は2018年にICOによる10億ドル調達計画を発表しました。

また、チェチェン共和国では大統領がブロックチェーン推進に高い関心を持っており、ビットコインを購入したことが報じられました。クリミア共和国では2018年11月にアメリカ主導による経済制裁を受けている国の学生などに向け、将来的に経済制裁を回避し海外投資家からの投資が受けられるようブロックチェーン技術の国際教育センターを設立する計画が発表されました。沿ドニエストル・モルドバ共和国では、その豊富な電力供給を巡る特殊な事情を抱えながらも、マイニング事業の誘致を打ち出しています。

沿ドニエストル・モルドバ共和国 マイニングを合法化し、海外事業家向け支援を表明

沿ドニエストル・モルドバ共和国(以下、沿ドニエストル)の政府高官は、他のNIS諸国に倣い、紛争中の国内においてクリプトに適した環境をつくろうと試みています。新たに承認された法律で定められた自由経済特区(Free economic zone、FEZ)では仮想通貨マイニングが合法化され、海外事業家に多くの優遇措置が与えられます。マイニング事業立ち上げのために誘致された事業家は、同国で法人登記する必要がありません。マイニング設備を関税無しで輸入することができ、また安価なエネルギーを無制限に利用できるのです。資産を特区から持ち出すことも制限されません。

マイニングの自由化 優遇措置や支援も

沿ドニエストルのヴァディム・クラスノセルスキ(Vadim Krasnoselsky)大統領は新たに採択されたばかりの法律「ブロックチェーン技術の情報発展に関して」について、

「我々はマイニング技術者からの意見を受け、合法的かつ技術的な基礎を築く必要があるという結論に至り、規制の枠組みを整備しました。」

                          コメンサルト紙

と述べたと、ロシア全国紙コメルサント紙が報じました。国のトップが自ら新たな法律を起案したのです。同国当局は、特区での優遇措置だけでなく地方の電力系統へのアクセスを提供することに関しても「最大限の支援」を表明しています。電力供給事業者によっては特別なレートが適用されるかもしれません。

仮想通貨マイニングでは大きなエネルギーが必要とされます。沿ドニエストルのクラスノセルスキ大統領は、「私たちは電気生産国だ」と述べ、マイニング事業に供給できるだけの豊富な余剰エネルギーがあると主張しました。

ドニエストル川の水力発電所とロシアが所有するモルドバの発電所が、48000キロワットもの電力をマイニングプールに供給することができます。首都チラスポリ中心部にある三か所の火力発電所もまた利用することができます。それらはガスプロムが供給する天然ガスで運営されていますが、実は沿ドニエストルはこの天然ガスの対価を支払っていません。モルドバ共和国内で沿ドニエストルの扱いがまだ議論の最中であるため、モルドバ共和国に対して60億ドルの債務請求がなされているのです。

クラスノセルスキ大統領は、沿ドニエストルをマイニング事業の地として検討している、ロシア投資家をターゲットにしていることを認めました。こうした「移民」のポテンシャルのある事業にはロシア連邦検事局長ユーリ・チャイカ(Yury Chaika)氏の息子イゴール氏が一役買っています。

30歳のイゴール氏はロシアで有名な事業家であり、中国市場に参入するロシア企業向けに物流支援を行う企業の創業者です。彼はコメルサントに対し、沿ドニエストル当局がマイニング設備のためのインフラを整備すると約束したと伝えました。ロシア人事業家による最大25万ドルの投資プロジェクトが数件ほど検討中だということです。イゴール・チャイカ氏は、沿ドニエストル、モルドバ共和国、ロシアのいずれかを選択する際に、電力コストは重要な判断材料となるだろうと述べました。

【ロシアンOLちゃん】@crypto_russia

ロシア・ウラジオストク出身。14歳のときに国際交流プログラムで来日した事がきっかけで、日本語の勉強を開始。極東連邦大学日本語学部に進学し、卒業後、日本の商社に就職。投資会社を経て、2018年、ブロックチェーンプロジェクトのコンサルティング業務を手掛けるベンチャー企業FEB株式会社に転職。堪能な語学力を生かして、「ロシアンOLちゃん」として、ロシアや欧州の情報をツイッターで配信する。「ロシアの仮想通貨情報をひたすら翻訳するブログ」(https://cryptorussian.blogspot.com/)も運営。