現在、世界中でブロックチェーンに関して、レギュラトリーサンボックスを活用した取り組みが行われています。ロシアでは、昨年から3つの法案が起草され議論されていますが、何度も方向性が変わり、いまだに結論が出ていません
一方で、ロシアでは国内外の多くの暗号通貨取引所、プロジェクトなどクリプト関連企業が盛んに活動しています。これまで、ロシア国内で起草されてきた法案は、実態に即していない、という多くの批判を受けていますが、実態に即した法律を作る上で、レギュラトリーサンドボックスは有効な取り組みと言えるでしょう。最近になりロシア国内でもレギュラトリーサンドボックスを創設する計画が議論され始めています。
「ロシア経済開発貿易省の法案の下で、暗号通貨関連ツールをテストするためのパイロット実験エリアとして”レギュラトリーサンドボックス”を創設します」
国家金融委員会アナトリー・アクサコフ議長はこう述べました。同氏によるとロシア国会もこのイニシアチブを支持しているということです。さらにアクサコフ議長はこう続けます。
「国会の春のセッションで採択されるであろう“レギュラトリーサンドボックス”に関する法律は、経済活動や事業運営のためのクリプトツールを含む、個々の企業または特定の業界での使用について一部地域で試験的に許可するというものです。」
テクノロジーを育てるロシアのイニシアチブ
経済開発貿易省のコメントによると、複数のエリアで、このイニシアチブへの参加が議論されていますが、まだ特定の地域や企業を選出する段階ではないとのです。 さらにブロックチェーンだけでなく、“エンドツーエンド” の情報技術(量子コンピューティング技術や中性子技術、人工知能など)を扱う地域や企業も、このプロジェクトに参加することができるそうです。
ロシア産業企業家同盟では、このイニシアチブによって暗号通貨とトークンを使用した資金調達がスムーズになり、規制下でアセットを売買することが可能になると考えています。同盟のセルゲイ・ミテンコフ副会長によると、ロシア産業企業家同盟ではすでにデジタル化の問題に関する諮問委員会が活動しています。彼の意見では、特定企業10社に金融クリプトツールを使用させ、その事例を使って、起こりうる法的および経済的リスクを把握するという方法が望ましいということです。
さらにミテンコフ氏はこう説明します。
「証券取引所に上場が出来ない、あるいは決済ができない企業でも、代わりにブロックチェーンを使えば資産を売買することができるようになるでしょう。資産によって担保された暗号通貨とトークンの使用をイメージして検討進めています。これは資本を引き寄せることに繋がる方法でしょう。知名度の高い企業が参加し、透明性のある取り組みが行われることによって金融当局の懸念はきっと取り除かれるでしょう。」
活発化する地方の取り組み
既にいくつかのグローバル企業やロシアの一部地域はこのイニシアチブに興味を持っているようです。
カリーニングラード地域では、このイニシアチブに参加する可能性について検討しています。 カリーニングラード地域開発局によると、同地域ではブロックチェーン技術をサポートする多くのIT企業やコミュニティ(プロジェクトの中ではgolos.ioとitsphere.ioが注目を集めている)が活動していて、マイニングに対する取り組みも行われています。
タタールスタン当局もこのプロジェクトに興味を持っています。 当共和国情報化通信省の報道機関によれば、この法律の採択により地方自治体主導で地方機関を中心とした実験的な法制度を創設することが可能になるという考えを述べました。
「我々は、タタールスタン共和国情報通信省の下位組織である州立“ITパーク”の活動の枠組みの中で、「レギュラトリーサンドボックス」を創設することの実現可能性について研究している」
VEBというブロックチェーンコミューンの責任者であるウラジミール・デミン氏は、次のように述べています。
「ハイテック技術に関する法律を作成する上で、「サンドボックス」設立の必要性についてはロシアだけでなく他の国も真剣に考えているはずです。安全性や技術の濫用という問題を解消するだけでなく、技術の発展にも役立つような規制の形態を見つけることが重要です。」
ところが、この法案が採択されるのを待たずに、ロシア連邦西部のウドムルチア共和国で、すでにクリプトツールの使用に関する交渉が開始されています。ウドムルチア共和国は最近ベラルーシで開設された、Currency.comという取引所へトークン化された債券を上場させる予定です。既に取引所との合意は取れているそうで、次のステップとしてロシア中央銀行と金融当局との調整を予定しているそうです。
※ロシア連邦法案「電子金融資産について」は現在まだ作成中です。
ロシアンOLちゃんのコメント
ロシア国内で暗号通貨用の「レギュラトリーサンドボックス」の設立について様々な意見が上がっています。ロシア商業銀行最大手のズベルバンクCEOグレフ氏は1月にダボスで開かれた国際経済フォーラムでサンドボックス設立について反対の意見を述べました。
ブロックチェーンの開発や普及は地理的なボーダーに当てはめることができないというのが反対の理由だそうです。ブロックチェーンは全世界で普及すべきであり、まだ特に向いている環境である特定の地方で受け入れられるとはとても思えないそうです。
新しいトレンドや新技術を評価する前に「レギュラトリーサンドボックス」を作り多くのテストを行うというのはロシアではよくあることであり、実際にはブロックチェーンに関しても同様なプロセスを採らざるを得ないでしょう。またブロックチェーン、暗号通貨に関しては政府が非常に慎重になっており当初の予定以上に長い時間をかけて法案を作っているのだが、一部の地方で先にプロジェクトや取り組みが始まれば、より多くの知見が得られ、より現実的な規制に繋がるでしょう。もちろんブロックチェーンは規制対象外という考え方もあると思います。ただし現実的にはまず各国で規制を作り、世界的なスタンダードを設けるために、グローバル協定によって統合させるという流れになるのでしょう。
ロシア・ウラジオストク出身。14歳のときに国際交流プログラムで来日した事がきっかけで、日本語の勉強を開始。極東連邦大学日本語学部に進学し、卒業後、日本の商社に就職。投資会社を経て、2018年、ブロックチェーンプロジェクトのコンサルティング業務を手掛けるベンチャー企業FEB株式会社に転職。堪能な語学力を生かして、「ロシアンOLちゃん」として、ロシアや欧州の情報をツイッターで配信する。「ロシアの仮想通貨情報をひたすら翻訳するブログ」(https://cryptorussian.blogspot.com/)も運営。