セキュリティトークンが世界に与えるインパクト

今回は最近注目されているセキュリティトークンについて解説します。これまで多くのICOが行われてきましたが、ICOの際に発行されるトークンにはユーティリティトークンとセキュリティトークンに大別されます。

ユーティリティトークンとセキュリティトークン

 

ユーティリティトークンとはその発行体が運営するサービスへのアクセス権を備えたトークンの事でそのサービスにアクセスするためのクーポン券のように考える事が出来ます。イーサリウムのネットワークを利用するためのETHやFilecoin の分散化クラウドストレージを利用するためのFILがこれにあたります(ユーティリティトークンの詳細な分類に関しては今回は省略します)。

 

一方でセキュリティトークンのセキュリティとは”証券”を指し、(有価)証券としての価値を持つトークンの事を指します。トークンの保有者に配当が支払われるTaaSなどがこれにあたります。

 

セキュリティトークンでICOを行う場合はIPOに類似する資金調達方法であるため、発行体は財務諸表の開示や監査報告が必要になり米証券取引委員会やSECや各国のそれに該当する機関による厳格な管理下に置かれる事となります。

 

実際にSECは2018年3月に仮想通貨の規制に関する公式声明を発表しており、証券に該当するトークンの取引サービスを提供する取引所はSECへの登録が必要だとしています。

セキュリティトークンが注目されるようになった背景

 

これまでのICOの多くはユーティリティトークンのオファーでした。証券性の高いセキュリティトークンに比べて法的コストやコンプライアンスの難易度の低さも要因として挙げられます。

 

過去のICOの多くは法規制が追い付いていない国・地域で行われていたためICO時の価格から暴落しようが、途中でプロジェクトの開発が頓挫しようが発行体は投資家に対する責任は一切ありませんでした。ユーティリティトークンのICOは発行体にとっては資金調達をする上でリスクがないにも関わらず投資家保護が不十分なため結果的に詐欺的なICOも氾濫する事になります。

 

数十億集めておきながら法的追及をされる事がなく、たとえ利益が出ても投資家に配当を支払う必要もない。またスタートアップに投資するのに配当もなく、投資家はトークンの値上がりを待ち望むだけというユーティリティトークンのICOに対して疑問の声が上がるようになって来ました。

 

セキュリティトークンのポテンシャル

 

例えばシリコンバレーのスタートアップにシリーズAなどの初期の段階で出資する事が出来るのは今までのIPOの場合(現実的には)一部のVCなどに限られていましたが、セキュリティトークンならばIPOレベルでの投資家保護が保証されつつ国や証券取引所の垣根を越えて世界中の人々が有望なスタートアップに投資する事が可能になります。

 

またセキュリティトークンは現実世界でのあらゆる資産の所有権の証明にも有効です。例えば絵画や不動産の所有権をセキュリティトークン化する事で複数のオーナー公平かつ効率的に、そしてカウンターパーティーリスクなく最小単位から配当を付与する事が出来ます。

 

あらゆる資産を最小単位に分割して所有権をシェアする所謂”フラクショナルオーナーシップ”に対してセキュリティトークンを導入する事で、今まで流動性に乏しいと見なされていたあらゆる資産が世界中のマーケットに開かれ、24時間365日取引する事が可能になるので流動性が格段に上がるというメリットもあります。

 

世界経済フォーラムは今後10年で800兆円分の証券がセキュリティートークンに置き換えられ20年後には世界のGDPの10%はトークン化されるとの予測をしています。(参考:blockstate-finance

 

今後の法規制は?

 

米国SECは2018年中にセキュリティトークンの規制に関する指針を発表するとされています。シンガポールとイギリスも米SECの声明に追従する形で規制の指針を示しています。

 

日本の金融庁はまだセキュリティトークンの法規制に関する声明を出していませんがAnyPayが先月セキュリティトークンを発行するためのプラットフォームをリリースする事を発表している事からも日本でもセキュリティトークンに関する法規制は今後の重要なトピックとなるでしょう。(corp.anypay.jp

 

各国の法規制が整備される事で今までのような中ば無法地帯であったICO市場が確実に健全化されていく事が期待できます。ただSECや他国のそれに該当する機関による監督は仮想通貨やブロックチェーンの持つ非中央集権のイデオロギーと相反するという意見もあります。