Innovators File#1 ビットコイン・エヴァンジェリスト・宍戸健の語るこれからの仮想通貨業界とは

仮想通貨のミートアップとしては世界最多開催数を誇る東京ビットコインミートアップのオーガナイザーの一人でありビットコイン・エヴァンジェリストの宍戸健氏。イスラエル在住の宍戸氏の語る仮想通貨業界の最新の動向と今後の展望とは。

 

Q:初めに宍戸さんが仮想通貨の世界に入ったきっかけを教えて下さい。

宍戸:まず簡単に経歴から話しますと、高校二年生の時にアメリカのミシガン州に留学して、オーストラリアの大学に進学しました。卒業後、野村不動産がオーストラリアに作ったジョイントベンチャーに、6年くらい勤めていました。

 

その後は、シンガポールテレコムで法人向けに通信回線の営業をしていました。当時担当していたのはHFT(High Frequency Trading)を行う外資系の金融機関でしたが、他の業種に比べて金回りの良さが段違いなのですよね。「なんでこの人達はこんなにお金があるのだろう」という疑問からお金の仕組みや歴史を調べるようになったのです。その過程で、現在の紙幣制度の在り方に疑問を持つようになりました。2011年4月ごろに当時フォローしていたとあるYoutuberが、ビットコインを紹介しているのを見た事がきっかけで、仮想通貨にはまっていきましたね。

 

初期のビットコインのコミュニティには、ブロックチェーン技術に関心のあるテック系の人達と、貨幣制度に疑問を持つリバタリアン的な政治思想を持つ人達がいました。技術的関心だけだった人たちの多くは、当初2年くらいはビットコインの価格がほぼゼロだった事もありドローン、VR技術など、他のおもしろそうな分野に興味が移り、ビットコインから離脱していきましたね。

 

しかし、政治思想を持つ人達はビットコインの価格が低迷していたような時期にも普及活動を続け、その後、ビットコイン企業の創業者やエンジェル投資家になり、業界を牽引していく事になります。

 

Q:現在はイスラエルを拠点に活動されているそうですがイスラエルで印象的だった事を教えて頂けますか?

宍戸:まず驚いたのが治安がよく、とても安全なことです。日本人に限らず多くの人にイスラエルは「えー、なんか物騒で怖い。」というイメージがありますが、なんというか、街を歩くと雰囲気自体が平和なんです。普通海外に行くと、スリに合うのではないかと緊張するじゃないですか。イスラエルではそもそもスリや犯罪の気配がないのです。次にベンチャーの数がとにかく多い事ですね。We Workだけでテルアビブ市内で6か所もあります。イスラエル人に聞くとサラリーマンだと生活がしにくく、ベンチャーを起こさないと色々と評価されないみたいです。日本と反対のイメージですね。

 

またイスラエルはアグリテックが盛んです。イスラエルの農業は高度に機械化されていて、多くの農業用ロボットが活躍しています。砂漠の国なので水を一滴も無駄にしないという精神と、安全保障の観点から何年も前から食料自給率100%を達成しています。国土は四国ほどなのにも関わらず、イスラエルの農作物の輸出額は日本のそれと同等なのです。

 

私が訪ねたテルアビブ北部を拠点とするMeshek76社は、無人農業栽培のアグリテック研究開発会社でしたが、運転資金を稼ぐために仮想通貨のマイニングをしていました。若い人達がテックを使って日々農業栽培ロボットのプロトタイプの改善、マイニングアルゴリズムの改善を行っていたのが印象的です。一方で、日本の農業は利権や参入障壁の高さから、テックが出来る若い人達が入ってこないのが残念ですよね。

 

あと面白かったのはMeshek76社がPOCで受注していた水晶の選別プロジェクトです。イスラエルは水晶、ダイヤモンドなどの鉱石加工業が有名ですが、この分野でもAIの導入が始まっています。グレードの峻別は未だに人間が目視で行っているのですが、それを高精度カメラで色を識別、グレードごとに機械が選別するというプロジェクトでした。

 

Q:宍戸さんはビットコインキャッシュのエバンジェリストとして有名ですが、ビットコインキャッシュの今後の展望についてお聞かせください。

宍戸:ビットコインキャッシュは今年の5月と11月にハードフォークを行う予定になっていますが、あくまで暫定的な予定です。オップコードを入れてスマートコントラクトが使えるようにするという計画もありますがまずはキャッシュとして広く利用されるようにするのがプライオリティだという意見も多くあります。

 

Q:最近なにか注目しているプロジェクトはありますか?

宍戸:Yoursというブログサイトを知っていますか?Yours内のブログ記事の購読料はブラウザ内蔵のウォレットを通じてビットコインキャッシュのオンチェーンで支払われるのですが、参加者のインセンティブの与え方が斬新です。各ライターは記事の購読料を数セントから設定するのですが、記事の前半は無料で後半は25セントといった設定もできます。また、フェイスブックの「いいね」に相当する投票機能もあり、投票するのに手数料が発生します。その代わりに自分の後に投票した人のフィーの一部が還元されます。有名人の記事に良質なコメントを書けば、自分のPRも出来ると同時に、コメント欄の荒らしが排除され、良質なコメントが残るというデザインです。

 

Steemitと似ていますが、Steemit は独自のトークンがありますよね。トークンを発行するとブロックチェーンマネージメントをしなければならない。トークンの価値が上がり続けるにはユーザーが増え続けないといけないけど、かといってインフレになったらトークンを持つインセンティブが生まれない。これをプロジェクトと平行してやるのはすごく大変な事です。なのでYoursは独自のトークンを使わずビットコインキャッシュを採用しています。

 

Q:メディアの収益モデルを大きく変えそうですね。

 

宍戸:そうですね。多くのメディアは依然として広告を主な収益モデルとしていたり、すぐに月額購読に持っていこうとしますが、ビットコインキャッシュによるマイクロペイメントによって、Yoursのようなモデルがすでに実現しているのです。これはとてつもないインパクトがある事だと二年前から言っているのですが、周囲の反応は薄いですね(笑)

 

Q:最後に今後の夢、やりたい事をお聞かせください。

宍戸:日本の場合、東京は面白いけど地方に活気がないという問題がありますよね。この国では明治以降、急速に東京の一極集中化が起りました。今ではネットがあれば地方でも仕事なんていくらでも出来るはずなのですが、東京と違って地方には面白い人や、刺激的な人が沢山いるわけではないので、みんな地方で仕事をしたがらないですよね。一方、ドイツ等は各地方が栄えていて面白いです。私は日本も分散化する事で、各地方に活気を取り戻したいです。