6月29日グノシー本社にてブロックチェーン実用化をテーマとしたエンジニア向けミートアップ”Smart Contract Meeting for Real Use”が開催された。
世界各地で幾多ものブロックチェーンプロジェクトは壮大なビジョンを掲げてICOを行うが、その多くはプロジェクトが一向に進まないといった事も少なくない。ブロックチェーンが実社会に導入される上でどのような課題があり、如何にして解決していけば良いのだろうか。Smart Contract Meeting for Real Useはブロックチェーン業界で活躍する事業者達がスマートコントラクトを実用化する上での課題とソリューションについてのピッチを行った。
–スマートコントラクトの課題と実用化に向けたアプローチ
まず初めに登壇したのはグノシー新規事業開発室のOsuke氏。同氏は以下の導入の後に現在のスマートコントラクトの課題と実用化に向けたアプローチについて説明した。「スマートコントラクトは価値の交換を伴う契約の自動化と言い換える事が出来ます。データが改ざん出来ない、データを誰でもいつでも閲覧出来るといった性質を持つブロックチェーンを用いる事で、スマートコントラクトにおいて第三者を介す事なく価値の交換の条件を柔軟にプログラム出来るようになりました。」
次にOsuke氏は代表的なスマートコントラクトであるイーサリウムが抱える以下の5つの課題であるスケーラビリティ問題、アップグレーダビリティ問題、プライバシー問題、オラクル問題、アイデンティティ問題についてそれぞれ解説した。最後にスマートコントラクトの実用に向けたアプローチをして、トークンエコノミーを創出する上でのインセンティブ設計、トークンホルダーに対するインセンティブ設計の重要性とその事例を紹介した。
-Tezos「スマートコントラクトの導入により変わっていく業界」
次に登壇したのはTezos Japanのサイモン・バルドゥッチ氏。昨年、開発者と財団間での内部紛争が起こるなどのニュースがあったTezosだが幾つかの技術的な特徴を持つ。Tezos はハードフォークなしにアップグレードが出来るブロックチェーンを実装し従来のアップフレーダビリティ問題を解決しており、またステークホルダーにプロトコルや仕様に対する投票券を与える事で分散化されたガバナンスを提案している。「ビットコインが大きな価値を持つようになったように、他のブロックチェーンプロジェクトもそれぞれの特徴を生かし大きな価値を持つ可能性を持っています。ではそれらのプロジェクトが活躍するマーケットはどこにあるでしょうか。」
バルドゥッチ氏はブロックチェーンの台頭の背景を説明した後にブロックチェーンによるスマートコントラクトが活用されうる市場について語った。同氏がまず挙げたのが医療保険の分野。自分の健康情報をブロックチェーン上に保存する事はプライシーの観点から慎重にならなければならないと指摘する一方で、改ざん不可能で透明性の高い分散化データベースは医療保険の方針を大きく変えより効率的かつ最適なものにするという。
次に挙げたのがコモディティサプライチェーン。商品の流通データをブロックチェーンと紐づける事で透明性が高く正確な商品の管理とトラッキングが出来る。また昨年、5兆円に上る規模だったデジタルコンテンツの市場とブロックチェーンの親和性も高いという。映画、音楽、あらゆるデジタルメディアにとってブロックチェーンは成長のエンジンになると。バルドゥッチ氏は来年にはこれらのプロジェクトの成果を人々が目にする事になると語った。
-KIRIK「セマンティックプロトコルによる次世代のスマートコントラクト」
最後に登壇したのがロシアの次世代スマートコントラクトのプロジェエクトのKIRK。CEOの ヴィタリ・ガミロフ氏とCMOのエドアルド・ジハンガリャン氏が次世代スマートコントラクトの展望を語った。
KIRIKは現在のスマートコントラクトの課題として、「仕様」と「実装」の間にあるギャップを指摘する。イーサリウムによるスマートコントラクトの場合、クライアントの「要求仕様書」はプログラマーがSolidityを用いてコーディングする事により「実装」に移されるのだが、人間が介入する事で顧客の要求仕様と実装の間で暫しギャップが生じうる。
例えば、あなたがとある弁護士にスマートコントラクトの作成依頼をしたとする。その弁護士はクライアントから主訴や要件を抽出し、法的拘束力の契約書を作成する。それを元に(コーディングの出来るクリプトロイヤーでもない限り)スマートコントラクトを扱えるエンジニアにプログラミングを依頼する(さらに監査の出来るエンジニアも用意しなければならない)。場合によっては金融、会計など他業種の専門家のチームアップも必要だ。各ステップで多くの専門家が介入する事は誤謬や解釈の元となる。現在のスマートコントラクトは実は人々が思っている程、自動化されている訳でもなければ、低コストでもないのが現状だ。
KIRIK CEO ヴィタリ・グミロフ氏は「3Dプリンターをイメージしてください。仕様書を読み込めば忠実に3Dモデルを表現してくれる3Dプリンターのように、キリクスマートコントラクトはあなたの要求書を数学の公式に元づき、正確かつスピーディに実行に移します」と語る。
KIRIKの提唱するセマンティックコントラクトはプログラミングが不要で、自然言語のみによって誰でも簡単に扱える次世代のスマートコントラクトだ。セマンティックコントラクトは ∆0-論理式いう数式のルールの元に記述されら一連のプロトコルから構成されている。ユーザーが自然言語で記述した仕様書を正確かつ自動的にプログラミング言語に翻訳し、法的拘束力のあるコントラクトを作成する。ユーザーはビジュアルエディターというツールを用いてテンプレートを辿るだけで簡単にスマートコントラクトの仕様書を作成できる。
また多くのブロックチェーンは、相互運用が出来ず、既存のシステムとの互換性に問題を抱えている。所謂オラクルの課題だ。KIRIK セマンティックコントラクトのプラットフォームは他のブロックチェーンや既存の金融システムとの互換性を備えている。既存のOSや他のブロックチェーンはKIRIKのプラットフォーム内に独自のドメインとノードを作る事が出来るため開放的なエコシステムが形成される。KIRIKは乱立する数多くのブロックチェーンを繋げ、実際のビジネスシーンに導入するためのプラットフォームなのだ。各トランザクションはIOTAにアンカリングされるためスケーラビリティ問題も解決している。
CMO エドアルド・ジハンガリャン氏は最後にこう付け加えた。「私達は既存のブロックチェーンプロジェクトと競争するつもりはありません。それぞれのブロックチェーンプロジェクトが人々の生活に届けるための架け橋になりたいのです」
-まとめ
ブロックチェーンとの互換性、スケーラビリティ、数学的法則に裏付けされたセマンティックコントラクトという技術的な強みがある事からは将来性のあるプロジェクトだと言える。一方でオラクルの問題とコミュニティの形成が今後の成長における課題となるだろう。
KRIK外部のネットワークからブロックチェーン内に情報を移行する際に∆0-論理式に基づいて導入するとしているが、外部情報のエビデンスレベルを評価するための基準についての詳細な記述はWPには見られなかった。学術的な情報や専門性な高い情報をオラクルする事は分散化台帳の分野で重要な課題であるため今後KIRIKのアプローチには注目して行きたい。
またオープンソースのプロジェクトにおいては技術のコピー合戦が避けられない。ZilliqaやOntologyはシャーディングを技術的なアドバンテージとしていたが、先月イーサリウムのヴィタリク・ブテリンがシャーディングの導入について検討している事を言及した事は業界内で大きな波紋を呼んだ。オープンソースのテック企業の競争においては、コピーが容易な技術的な優位性よりもエンジニアの数やコミュニティの強さなどのアナログな強さが大きな要因となる。KIRIKはコミュニティの育成に力を入れていく意向を明らかにしたが今後持続可能な力強いコミュニティを育てていく事が重要になってくるだろう。
主催者情報:
FEB株式会社
東大ブロックチェーン開発団体BitPenguin