仮想通貨は、本質的には、国境の概念が無いため、世界の小さな国家が外国企業を呼び込むために、ブロックチェーン技術の普及や、法整備に注力しているケースがしばしば見受けられます。特に技術者の多い旧ソ連諸国(ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、ジョージア、アルメニア、ウズベキスタンなど)ではブロックチェーン技術の普及に対して積極的であり、既にいくつもの取り組みが始まっています。ウクライナではNEMを使った投票システムの実験、ジョージアではマイニング用タックスフリーゾーンの設置、アルメニアでは国家仮想通貨や、ブロックチェーンプロジェクト支援のためのインキュベーター設立、ウズベキスタンでは行政サービスのブロックチェーンなどといった動きがあります。
このシリーズではロシア生まれである私の強みを活かして、こうした旧ソ連諸国のブロックチェーンに対する先進的な取り組みについてリサーチ、分析していきたいと思います。
初回である今回はこの数ヶ月特にブロックチェーン関連の動きが活発なウズベキスタンの事情をお伝えします。
目次
世界初のブロックチェーン政府を目指すウズベキスタンはSTOマーケットの中心になれるか

旧ソビエト連邦のウズベキスタンでは、イスラムカリモフ大統領が数十年の任期を終え、新しいリーダーが選任され、最近暗号通貨を検討し始めています。
ウズベキスタンはベネズエラのPetroもしくはアブハジア共和国政府が作成を計画していたような暗号通貨を販売しようとしているわけではありません。実はシャフカット・ミルツィヨイェフ新大統領は、暗号通貨を少なくとも法的支払い手段と見なしているようです。9月には、ウズベキスタン国内での暗号通貨取引所を合法化させ、同時にブロックチェーンの新興企業への投資と新技術の分野での開発を促進するための基金を設立しました。『デジタルトラスト』と呼ばれるその基金の主な目的の1つはSTO(トークン化された証券の提供)を実施することです。
『デジタルトラスト』の広報部長ボビール・アキルハノフ氏はこう話しました:
「プロジェクトの概念的な枠組みを作り始めた段階です。 アセットに保証されていないICOトークンはむしろハイプであると言えるでしょう。 STOは株式のトークン化を可能にするため、より「正当な」投資形態です。 私たちは現在この市場のための法整備に取り組んでいます。 私たちは急いでいません。リスクをとったり、ミスをするという無用な結果にさせたくないというのがその理由です。」
アキルハノフ氏は、ファンドの管理下にある資産の規模を明らかにしませんでした。 しばらくの間ウズベキスタンは、近隣のカザフスタンのように、ブロックチェーン技術を研究している段階にあります。 現在の基金の重要な活動は「デルタシティ」の発展です。2018年7月4日の大統領令により、タシケントで建設されている「国際ハイテクイノベーションセンターハイテクシティ」が改名され、「デルタシティ」計画という名前になりました。 韓国のPOSCO Daewoo社と共同で実施されているスマートシティプロジェクトの予算は14億ドルと推定されています。
海外投資家の誘致に積極的なウズベキスタン
ウズベキスタンは昔から韓国、中国、ロシアからの投資家を誘致しています。 暗号通貨とブロックチェーンに関して、こうした共同プロジェクトは中国、香港、日本、韓国、シンガポールにとって興味深いものでしょう。
先陣を切ったニューヨークのフィンテック企業

現在『デジタルトラスト』は世界トップのブロックチェーンサービスプロバイダーとパートナシップを結ぶための活動を行っています。STOサービスを提供する、ニューヨークのフィンテック企業BankExのイーゴリ・フメーリ社長は下記のような意見を述べています:
「企業は債券を提供することで、既存の方法でも資金調達ができますが、STOの面白いところは外国人投資家が国の資産へのアクセス出来るという点です。 今、私たちは間違いなく公衆電話よりスマートフォンを使うことを好むでしょう。それと同様に、STOのモデルは、ICO、ベンチャーファイナンス、債券市場よりも速くて、安くて、効率的で実施しやすいモデルです。」
ある予測によると、STOによって今後10年以内に、世界中のさまざまなブロックチェーンプラットフォームへ最大1兆ドルの投資資金の流入が可能となります。 『デジタルトラスト』から招待を受けたBankExはウズベキスタンでこの市場に参入した最初の企業となりました。
ウズベキスタンの通貨スムは比較的安定しています。 新政府はスムのレートをコントロールすることがなかったため、その間スムは価値の半分を失いました。 しかし2017年9月以降、ドルとの為替レートは1ドル8,000〜8,300スムと比較的安定しています。なお世界銀行によると、2004年以降、ウズベキスタンのGNPの成長率は5%です。
BankExのフメーリ社長は最後にこう話しました。
「我々の目標は、ウズベキスタンのようなニッチな市場や地域でSTOプラットフォームを構築することです。 BankExは韓国、日本、タイでも営業しています。ウズベキスタンはこれらの国々とは異なります。それぞれの国が色々な特徴を持っていますが、ウズベキスタンの場合は世界で初めて当局が「ブロックチェーン政府」を目指しています。 ウズベキスタンは現在STOの主要なローカルマーケットの一つになれるチャンスを手にしており、この方向への取り組みがすでに行われています。」
ロシアンOLちゃんのコメント
ウズベキスタンは日本ではあまり馴染みのない国かと思います。ロシア人にとっては旧ソ連諸国における南国のイメージがあり、ウズベキスタンで作られたフルーツがロシア全土で流通しています。経済面では天然ガス資源を保有しており(世界11位程度)、トラクターなどの農業機械の製造が盛んです。一方でロシアに出稼ぎに来ているイメージが強く、GDPが高いイメージはありませんでした。しかし統計データによると近年ウズベキスタン経済は非常に活発で、ここ10年でGDPは6倍以上に成長しているそうです。
元々ITを含めた教育は強い国というわけではありませんが、去年からブロックチェーン分野での取り組みが注目されており、医薬品のトレーサビリティやブロックチェーンアカデミー設立、2018年8月には法令「ウズベキスタン共和国における文化芸術圏の革新的発展のための措置について」に基づき、国の文化局がイベントのチケットや顧客情報をブロックチェーンで管理するといった取り組みも行われています。2018年11月にはEUから「ブロックチェーン技術の利用を含む行政サービス改善」を目的とした無条件の補助金、総額€10Mを交付されることが発表され、2019年はますますブロックチェーン関連の動きが活発になりそうです。

ロシア・ウラジオストク出身。14歳のときに国際交流プログラムで来日した事がきっかけで、日本語の勉強を開始。極東連邦大学日本語学部に進学し、卒業後、日本の商社に就職。投資会社を経て、2018年、ブロックチェーンプロジェクトのコンサルティング業務を手掛けるベンチャー企業FEB株式会社に転職。堪能な語学力を生かして、「ロシアンOLちゃん」として、ロシアや欧州の情報をツイッターで配信する。「ロシアの仮想通貨情報をひたすら翻訳するブログ」(https://cryptorussian.blogspot.com/)も運営。